同盟暦512年・三姉妹の拵え編11
ボロボロの姿でポー達は夕暮れ時の道を歩く。
ポーの背中には目を回して気絶したアーネストがおんぶされている。
レオリックスは完全に昏倒しており、クーリーが足首を掴んで引きずっていた。先程から引きずられながら石に頭をぶつけているのが、気の毒だ。
「クー…もっと優しく運んでよ」
「家まで投げる?」
「クー。笑えない」
「わかった」
足首から襟元を掴んで運ぶことにしたクーリー。
「あのね…」
「クーリー!」
そこに若者の戦士が走ってきた。
顔に緊張が迸っておりただ事ではないようだ。
「なに?」
「侵入者だ。門番がやられた」
ポーを睨むように一瞥して若者は石門の見張りが何者かに倒されたことを説明した。
外の人間であるポー達に疑いを抱いているようだった。
「死んだ?」
「命は無事だが、腕を切られてる」
「族長に知らせた?」
「あぁ。女子供は家から出るなと命じた。戦士は侵入者を探す」
「クーも行く」
「僕も手伝う」
「よそ者はなにもするな」
若者は言い残して探索に戻っていった。
「家に戻る。早く」
ポー達は急いで家に戻ると、クーリーはすぐに外に飛び出していった。
目を覚まさないアーネストとレオリックスに毛布をかけ、ポーは考える。
「(ここに侵入なんていったい誰が......)」
そこでポーはハッとする。
慌てて部屋を確認して回り、顔色が変わる。
「ヘア...ッ」
置いた剣を掴み、ポーはベアトリスを探すべく家を飛び出した。
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買い物をするベアトリスとカーは小さな騒ぎに気づいた。
いつもは活気に満ちているとはいえ穏やかな市場なのにと、ベアトリスも疑問を覚えた。
「どうしたんだろうねぇ」
「はい...」
「祭司様!」
精悍な青年の戦士が駆け寄ってきた。
「なんだい?騒がしいねぇ」
「侵入者です。門番もやられて…」
「オーリーが負けたのかい?。そりゃ驚いた」
「いえその…やられたのは新米のウーリーです。手練れの戦士が少し離れた隙をつかれて…」
「ふむ…具合は大丈夫かい?」
「命はとりとめ…!」
青年は背中を外套を頭から深く被った人物に斬られ、崩れ落ちた。
「おい」
「は…」
斬った男の側に従う一回り小柄な人物が素早く動き、ベアトリスの身柄を掴んだ。
「は、はなしてください…!」
「お静かに。姫殿下」
抵抗するベアトリスは声を聞いて相手が女性だと知る。
「お連れしろ」
「お待ち」
ベアトリスを連れて立ち去ろうとした二人をカーが呼び止める。
斬られた戦士の応急手当を終えたカーは抜き身の剣に怯んだ様子を微塵も見せない。
「勝手に客人を連れて行くもんじゃないよ」
「邪魔をするな」
男が剣を振り抜くと、カーは杖の先端をぶつけて押し止める。
ピクリと男の口元に驚きが浮かぶ。
祭司もまた戦を司る者である。弱くて牛の牙部族の祭司になるなどできるはずもない。カーも隠居したとはいえ、戦場で弓斧を振るった猛き戦士だ。
「いきなりかい。王国の民は礼儀知らずだね」
剣と杖が幾度か交差して打ち合うと、男はすぐに距離をとつて女と共にベアトリスを強引に連れ去った。
「衰えた足じゃ追いかけられないねぇ」
とはいえ何もしないカーではない。
すでに手は打っている。侵入者ではなくベアトリスにだが。
「祭司様!」
騒ぎを聞き付けた戦士達が駆け付ける。
あとは族長と腹心衆がやるだろうとカーは空を見た。
彼女の星に凶兆は見えなかった。




