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アラン戦記  作者: 夢物語草子


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同盟暦512年・三姉妹の拵え編10

カーリーの修行の苛烈さは一切衰えることなく、ポー達は毎日、気を失うまで戦った。

その成果は徐々に現れ始め、カーリーと戦える時間が長く伸びるようになった。

個々の実力やお互いの長短を理解し合い、連携をどう取るべきかを、ポー達は理屈ではなく本能で理解し始めていた。

ポーが一番手に切り込み、アーネストは助攻となる。

カーリーの棍棒が振るわれると、一歩下がったポーが地面を踏みしめて身構え受け止める。

その瞬間、アーネストがポーの背中を足場にして跳躍し、棍棒の上に飛び乗った。

「あら?」

そのまま棍棒の上を駆け抜けて、カーリーの顔めがけて剣を振るった。

カーリーは空いた左手で剣の刃を掴むと微笑んだ。

「残念でした。連携は悪くなかったけれどね」

そして左側の岩影から放たれた矢を躱す。

その時、アーネストは額に冷や汗をかきながら笑みを浮かべた。

すると右側から放たれた矢がカーリーの肩、腕、脚に突き刺さった。

「?あらー?」

そしてアーネストの背中に隠れていたクーリーが飛び出してクーリーの背後に回り込んで脚払いを決めた。

大の字になって倒れたクーリーにポー、アーネスト、右側からレオリックス、クーリーがそれぞれに武器を突きつけた。

「残念でした。あたしたちの方が上手だったみたいですね?」

「うおお……あのカーリーに勝っちまったよ…」

「クー!最強!」

「どうですか!カーリー殿?」

倒れたまま四人を見たカーリーは苦笑した。

「君達の勝ちですよ」

「「「「やったーーーー!!!」」」」

四人は手を振り上げて大喜び。

「お見事ですよ。これでようやく私も肩の力を抜けます」

ゴキンと首の骨を鳴らしたカーリーは凶悪な笑みを見せた。

「え?」

「限界まで手加減していたのでそちらの方が苦労しました。ここからはたとえ頭から棍棒を振り下ろしてもペシャンコに潰れることはないでしょう」

顔がひきつる三人。

クーリーはすぐに身構えた。

カーリーがとんでもない負けず嫌いなのはしっている。

他ならないクーリーも母親と同じく負けず嫌いなのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

お香が部屋の中に満ちている。

ベアトリスはカーと向かい合って座り、目を瞑った。

「心は風なき空と在れ。魂は太陽と月を巡り血と肉と骨の器に還ってくる。これはお前さんの魂を洗っとるんだ」

「えぇと……よくわかりません……」

「わからんでよい。理解できるものではない。お前さんは太陽と月、そして肉体に還ってくる。そのイメージを思い描き続けるんじゃ」

うんうんと唸りながらベアトリスは言われたことに素直に従う。

すると三十分経ったあたりから様子に変化が現れだす。

表情に痛みが浮かび始めた。

「(ほう…早いのう。……腕を押さえ、腹を押さえておる。狼に追われ喰われかけているところかのう)」

他者が傷を癒すのではなく自分で傷を癒す方法は行える者を選ぶ。

心の弱い者が行えばより悪化する。

「(この娘の傷は誰にも癒せん。己だけだ)」

ベアトリスの呼吸が荒く乱れ始め、姿勢を保つのも難しくなったのか体を横たえ始めた。

「(殆ど喰われたか。これは難しいのう……わしがどこまで導いてやれるか……)」

ベアトリスは今、自らの精神世界を旅している深い瞑想状態だ。

そこにカーが魔力を注いで心の傷を癒させているのだ。

精神世界でベアトリスは破れたドレス姿で素足のまま薄暗い石の通路を歩いている。

そこに二匹の狼が現れ、ベアトリスに襲い掛かり噛みつき喰い殺す。

これはベアトリスの自分に向けている感情だ。喰われるベアトリスの視線の先には光が満ちた部屋があり、父ダミートリアスや幼いポーやアーネスト、そして幼いベアトリスが笑顔で笑い合う場所があった。

絶叫してベアトリスは喰い破られ骨が飛び出した身体で剣を握りしめて狼を何度も突き刺し突き刺して殺した。

返り血で全身を染め上げて、ベアトリスは苦しみに満ちた顔で尽きること泣く。

『ーーーーーーーーわたしはしろい』

ベアトリスは剣の刃を首筋に当てた。

『ーーーーーーしろいままがいい』

グッと柄を握りしめて。

そして気づけば、大切な人達が血を流して足元に倒れていた。

ベアトリスの握る剣の刃が彼らを切り裂いたのだ。ベアトリスの涙はもう枯れていた。

『みんなも………一緒に………』

剣を滑らせて首を切りってベアトリスは倒れた。

そこでベアトリスは目を覚ました。

全身に汗をかき、息苦しく、呆然としていた。

「ひどい夢……なんて、ゆめ……」

「夢ではないぞ」

隣に座るカーに気づいたベアトリスは涙をこぼしそうな目を向けた。

「お主が何を望んで何をしたのかわからぬ」

「だが、行ったことはお主自身の意思だ。願いだ」

はらはらと涙を流すベアトリスは膝を抱えて顔を隠した。

あの時まで人を醜いと、憎いと思ったことはなかった。

それなのに今は、誰よりも理解しているような気さえする。

「……ポー……ポーに……会いたい………」

「もうすぐ飯時じゃ。帰ってくるよ」

カーは立ち上がり、バスケットを手に取り、ベアトリスに渡した。

「今夜はお前さんが飯を作るんじゃ」

「え?」

「わしが教えてやるわい。ほれ、必要なものを買いに行くぞ」

「あ、あの……」

「先にゆくぞい」

「ま…待ってください…!」

ベアトリスは慌てて起き上がりカーの後ろ姿を追った。

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