同盟暦512年・三姉妹の拵え編9
"北の尖り槍"に近いミケイル領ルーンドの町。
領主ペターソン子爵により平凡に統治されている。
町に一軒だけの酒場を兼ねた宿屋、奥まった座席でルグランは酒を飲む。
「……ふん……」
上質とはいえない葡萄酒に気分を損ねる。
首都ならばこんな安酒など犬でも飲みはしない。
「それもこれも奴のせいだ……あいつが…………」
ルグランの心を不快にかき乱すのはポーだ。
ベアトリスが帰還して以来、ルグランは頻繁にスノークイーン城に見舞いに訪れた。
多くの品物を贈り何度も面会を申し込んだが、一度としてベアトリスに会うことは出来なかった。
最初は心情を理解し素直に引き下がった。
だが面会を断られる度に不満が募り始め、遊び相手として付き合っていた女官を利用して調べさせたら、ベアトリスは城にいない事が発覚した。
さらにイスマイルがベアトリスをどこかに匿ったと聞き、必死で痕跡を手下に調べさせた。
そしてポーがベアトリスを連れ去ったと知った。
「姫は……ベアトリス様は私の愛しい女だ…」
「ルグラン様」
外套を着た六人の男女がルグランのところに戻ってきた。
「"情報ギルド"の者が先程、届けに参りました」
六人の中で最も位の高い手下、リア・ボーン(女・21歳)が折られた一枚の絵を手渡す。
立った女が描かれた絵だが、これには暗号文が隠されている。
この中でルグランだけが解読法方を知っていた。
「…………ふ、ふふ」
「ルグラン様…?」
そこに記されていた情報は、ポー達が牙の牛部族の里に滞在しているという内容だった。
「私は神に愛されている。私の予感が当たった」
「では…」
「行くぞ。必ずベアトリス様を奪い返す」
ルグランの目は決意に満ちていた。
それを見てリアは微かに沈んだ表情を浮かべた。
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戦士達に宿舎へと運ばれた気絶したポー達が目を覚ましたのは日が落ち空が薄闇に閉ざされ始めた頃。
全身は焼けるように痛く、動くのも一苦労。
「……あれが……女巨人カーリー・クー……」
呟くポーはカーリーに羨望を覚えた。
一騎当千の武勇を目の当たりにした衝撃は大きい。
レオリックスはトラウマを抱いたが、ポーは逆だ。
ポーは力を欲している。
故にカーリーの底知れない強さに尊敬の念を抱いた。
「強い…本当に強い…あの人の下なら僕は強くなれる」
「…その前に死んじゃうわよ…」
目を覚ましたアーネストは口を尖らせた。
「気分は?」
「最悪よ…。それにすっごく悔しい。あんなにあっさり負けるなんて」
「噂以上の人物だった」
「見た目以外はね。何が二メートル以上の大女よ。レオの嘘つき」
「嘘じゃねえよ」
レオリックスは嘘つき呼ばわりされ心外だった。
「女巨人て呼ばれるぐらいでかかったんだ」
「でもクーちゃんより少し高いぐらいよ?本人はね」
「いや…そうなんだけどさぁ…ほんとに俺が前に見たときは」
「クーが知ってるんじゃないか?」
「聞いたさ。そしたら「母様が戦士になればわかる」だってよ。意味わからねえよ」
「そんなことよりポー。姫様はどこにいるよ?」
アーネストがポーの首を掴んで問い詰めた。
指に力が込められている。
「祭司のところにいるらしい。…治療をしてくれるって」
「治療って…」
「カーリー・クーは誤魔化せなかった」
「信用していいの?」
「クーは仲間だ。そのクーが誰より尊敬する人だ。僕はクーを信じてる。クーの信じる人もね」
そっと手を離してアーネストは不満げな顔で、ポーの腹を拳でつついた。
「いったあっ!」
ポーは激痛に悶絶した。




