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アラン戦記  作者: 夢物語草子


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同盟暦512年・三姉妹の拵え編8

「がっ!」

カーリーの正拳突きを受けて吹っ飛ぶレオリックスをポーが抱き止める。

「レオ!」

「……あぁ……肺が潰れたかも……」

「生きてるから大丈夫」

レオリックスを寝かせて、ポーは剣を構えて余裕綽々のカーリーを凝視した。

尋常でない身体能力に明らかに手加減していてもなお凄まじい膂力。

心を落ち着け、息を吐く。

目線をアーネストに向けると、彼女は頷く。

「はあ!」

地面を蹴り、正面から攻める。

風を破る勢いで棍棒が繰り出され、ポーは体制を低くして回避する。

それでも棍棒から生み出された風圧に体制を崩しそうになる。

「(…ぐ…!)」

ぐっと堪えて、ポーは剣を振り抜いた。

カーリーはピョンと跳ねて避けると、ポーの襟首を掴んで上空に放り投げた。

「え?」

ポーの攻めにタイミングを合わせて斬りかかったアーネストは思わずポーを見てしまい、カーリーに足を蹴られて転ばされた。

「うわあああ!」

「お帰りなさい」

棍棒を振り上げ、打者のようにポーを狙いスイングした。

ポーの身体に衝撃とバキボギという音が響く。

肋骨が何本も砕けた。

空中で吐血しながら、柱に激突してポーは力なく倒れ込んだ。

カーリーはスキップしながらポーに近寄る。

「あらあら。一休みしちゃだめよ。まだ始まったばかりでしょう」

ポーの髪を掴んで持ち上げると、そのまま凍った地面に叩き付け、容赦なく勢いよく踏み付けた

「こんのぉー!くそばばあー!」

起き上がって、剣を水平に構えて突きにかかるアーネストは腕を絡め取られて、そのまま首を絞められる形となり、必死にもがくも顎を突かれて失神する。

ポーはもちろん、すでにボコボコにやられたレオリックスは一歩も動けず助けに行けない。

「んー!」

その時、カーリーの死角に回り込んでいたクーリーが、飛び出すなり、カーリーの後頭部を目掛けて跳び蹴りした。

「足癖の悪い娘ね」

すぐに足首を掴まれ、何度も何度も地面に顔面から叩き付けられ、遂には崖の方に投げ飛ばされた。

訓練試合開始から十分も経過せずに、ポー達は全滅と相成った。

「(…………レオが嫌がる気持ち…理解できた…)」

そこでポーは気を失った。

一人も立ち上がれない様子に、カーリーは棍棒を地面に突き立て、腕組みした。

「この子たち思ってたより弱いのね」

カーリーはため息をついて悩む。

「族長」

広場に現れたオーリーは酒壺を抱いていた。

「よい香りね。その酒は?」

「行商人から買った酒だ。珍しいので族長に贈ろうと持ってきた」

「それは嬉しいわ。ちょうどいい。ここで飲みましょうか。クーリーが帰ってくるまで時間があるの」

「また崖下に放り投げたのか?」

「少しなまってたみたいだったから、ちょっと頭にきちゃっって…」

「やれやれ」

ドスンと座り、懐から酒杯を二つ取り出して、酒を注ぐ。

「どこのお酒なの?」

「モリア産だ。十年寝かせ熟成した火酒だそうだ」

「それって炎酒じゃない?」

「あれは最低二十年寝かせるらしい。品物はあるらしいが、儂では手が出せんよ」

ぐいっと一息に飲み干した二人は熱く深い息を吐く。

「喉を焼き付くようね。血が沸き立つようだわ」

「歳を取ったな。儂にはちとキツイ」

オーリーもカーリーも酒杯を傾ける手は止めず、あっという間に半分まで飲んでしまう。

「それで?元白雪国の騎士はこの子たちをどう見ているの?」

「密偵、諜報とは思えん。行動が純粋で単純だ。族長を殺しにきたわけではないだろう」

「一戦交えてわかったのは、戦士ということね。むしろ影を見たのは王女殿下の方よ」

「ベアトリス殿下が?」

「心が侵されているわ。病というより毒ね。婆様のところに預けたから手を打つでしょう」

「…………大きくなられた。最後に見たのは三歳を祝う式典だ。御身に何があられたのかわからんのが口惜しい」

「ろくなことではないでしょう。諸国の人間は騙し合いが殊の外、大好きなのですから」

「辛辣な言葉だの」

オーリーの言葉は否定ではなく悔恨が滲んでいた。

「我々は戦いの中にこそ平和があると信じる。戦う力、闘争の魂と精神、それらを全て御する事こそ戦士であり戦士たりえるのよ。民に戦いを唆しながら石の壁の後ろに隠れるような者など戦士ではないわ。戦士は戦士でない者と語る口など持っていないわ」

カーリーは部族以外の人間を信用していない。

オーリーはカーリーのカリスマ性と恐るべき武力を間近で見て知っている。

いざとなれば第二の大部族軍の指導者として立つこともできる。

「(その時、大陸はどうなるのか想像もつかんな)」

酒壺が空になったところで、崖をよじ登ってきたクーリーが現れた。

目が怒りの火で燃えてきた。

「お帰り~」

「がるるるるる!」

研ぎ立ての光る白刃の戦斧をブンブンと振り回し、ヤル気満々だ。

「見学してもいいか?」

「好きにしなさい」

棍棒を肩に担いで、カーリーは娘を挑発した。

「母親の愛しさを身体に教えてあげましょう」

「厳しさの間違いだろう」

獰猛な野生の獣二匹が雄叫びをあげてお互いに襲いかかったのだった。

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