同盟暦512年・三姉妹の拵え編7
ロングハウスから歩いて着いたところは、石畳が一面に敷かれた広い広場。
「子供達はここで戦いを覚えるのです」
従僕が抱えている一メートル以上ある棍棒を軽々と振り上げてカーリーは三人を見据えた。
「武器を選んでください」
従僕に言われてポーとアーネストは剣を、レオリックスは剣と弓を手に取る。
精巧にできた木製だが、当たれば激痛だけではすまないだろう。
「武器は決まりましたね」
「はい、これで…………」
返事が終わる前に上段からポーの頭めがけて棍棒が振るわれる。
間一髪で木剣で防御するも押し負けて地面に倒れる。
「ちょっと…!」
「もう始まってんだよ!来るぞ!」
「あはははははははははははははツツツ!!!」
「なんなのよー!この人ー!」
アーネストは顔をひきつらせながら、笑顔で突進してくるカーリーを見て絶叫した。
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クーリーに案内されてたどり着いた小さな丸い家。
ベアトリスはひとり、ポツンと暖炉の前で座っていた。
クーリーは案内を終えるとすぐにポー達のもとに走っていってしまった。
天井には乾燥した薬草や花、実のついた枝が吊り下げられている。
棚には干からびた生き物が置いてある。
「(……………どうして私はここにいるのかしら……)」
とはいえベアトリスは武器を使えないため、修行に加わることはできない。
「……………?………」
ふと微かに甘い香りを嗅ぎ取ったベアトリスはキョロキョロと見回して、小さな壺に目を止めた。
覗いてみると、ヒトデのような形をした石がポツンと入っている。
「この石から甘い匂いが……」
手を伸ばして指先が石に触れると、ベアトリスの口の中に酷く苦いものが広がった。
口を両手でおさえて我慢しようとするも、苦味はさらに酷くなり、耐えきれず床に吐いた。
胸が痛み、心が軋む。
ベアトリスは声にならない悲鳴を上げた。
「誰じゃ?誰かおるのか?」
扉が開いて、白木の杖をついた老婆、カー・カー(女・147歳)は苦しむベアトリスをみると、彼女の手を取る。
「……ーー石の毒にやられたか」
カーは暖炉に吊る大鍋から煮汁を皿に注ぐと、それをベアトリスに飲ませた。
「ゆっくりと飲みなさい。それほど熱くはないよ」
飲んでは吐くことを繰り返してベアトリスはようやく落ち着きを取り戻した。
そのまま意識を失ったベアトリスを横たわらせて、カーは小箱の中を確認する。
「(ふむ…毒が抜けきっておらんかと思ったが…殆ど残っておらぬ。にも関わらずあれだけの拒否反応を起こすとはのぅ……)」
「この娘……相当に心を病んでおる……」
小箱を棚の奥に隠すとカーは眉を潜めた。
「…………ところでこの娘はだれかのぅ……?」




