同盟暦512年・三姉妹の拵え編6
「こちらに座られよ」
促されて胡座をかくようにポー達は座る。
「外からの客人は商人以外では数年振りだ」
「白雪国の者共とは言葉ではなく刃で語ることが多かったわ」
「最近は冬の獅子団と名乗る礼儀知らずの連中もおらんで退屈しておる」
「おうクーよ。わしの息子の子を産んでみんか?」
「なんと綺麗な乙女たちだ。目の保養になるぞ」
がやがやと喋り出す戦士達。
「静まりなさい」
カーリーの一声に一斉に口を閉じた戦士達。
「よくお越しくださいました。わたくしが牙の牛部族の長を務めているカーリー・クーです。お見知りおき下さい」
「(この人がカーリー・クー?)」
優しげな微笑みは女巨人と結び付かない。
「お目通りが叶い光栄です。カーリー・クー族長」
「そなたはフェニックス家のものですね?」
「はい」
「今は白雪国の古き家柄ですが、元は我らと同じく部族の者、南の部族だと聞きます。であれば同胞のようなもの。こちらこそ会えて光栄ですよ。名は?」
「ポー・アラン・フェニックス」
「何年も前、ロードフェニックスとお会いしました。南の同胞はお元気ですか?」
「暖かい風を振り払い、今は冷たい風に護られているので、南に赴いたことはありません」
北と南に分断した一族のことをよく知っていると、ポーは内心で警戒心を高めた。
「そちらの乙女は白雪国の王室スクルージ家の娘。かの北方の流星王ダンマルクの末裔ですね」
「カーリー・クー様。拝謁の栄誉を賜り感謝を申し上げます。ダミートリアスの娘、白雪国第一王女のベアトリス・"ダンマルク"・スクルージと申します。友好調和の印として我が名をお見知りおき下さい」
「後ろの二人はアーネスト、レオリックスです」
「…………おや?あなたは…覚えていますよ。四年前に戦いましたね。勇敢と無謀を履き違えた敵の中で目を引く働きをしていました。ぜひとも私の手で討ち取りたかったんですが…見事に逃げられてしまいました」
笑顔を向けられたレオリックスはビクビクと怯える。
「覚えとるぞ。冬獅子軍のガレス隊だ。勇猛と聞き及んでいたが期待を裏切られた」
「いや、勇猛と聞いたのはアストラットだ。"紅い手"のアストラット……」
「静かに」
威厳ある声が聞く者に灼熱のような熱さを感じさせた。
「口を閉ざせぬならば私の手で首をへし折ってあげます。望む者は誰なのか手を上げなさい」
部屋の空気が一気に重くなり誰もが口を閉ざした。
「あぁ…客人は別ですよ?」
「「「(……ホントかな……?)」」」
「それで?わざわざ里まで来た理由はなんです?戦いにきたのであれば歓迎しますが」
「強くなるために」
「?強く?」
「母様。みんな修行にきた」
「ええー!修行ー!本気で?」
面白そうに笑顔を浮かべたカーリー。
「死なないていど」
「死ななければいいのね?なにしてもいいのね?どこか壊れてもいいのね?」
「五体満足のまま。約束」
「あら残念。せっかくいい玩具が手に入ると思ったのに…」
がっくりと肩を落として本音をこぼしたカーリーは、失言に気づいたのか、笑って誤魔化す。
「ところで王女殿下も修行をするつもりですか?」
「いえ…ヘアは…」
「クーリー。王女殿下を祭司のところにお連れしなさい。ベアトリス殿下、里にいる間は祭司の婆様に教わるといいでしょう」
「え?あ、あの………」
「それじゃさっそく殺し合い……じゃなかった腕試しをしましょう」
カーリーは好戦的に目を光らせて立ち上がった。
「ついてきなさい」
ポー、アーネスト、レオリックスは渦巻く不安を胸にカーリーについていくのだった。




