同盟暦512年・三姉妹の拵え編3
そうこうしている間に妙齢の女が食事と飲み物を運んできた。
大きな鉄鍋が暖炉に吊され火にかけられた。
すでに出来上がったもので、肉と豆、小玉葱が煮込まれた白い白濁してシチューだ。
香辛料と蜂蜜を塗って焼いた山羊の骨付き肉に、新鮮な果物、そして熱い薬草茶。
「クーちゃん遅いわね」
「もう少し待つべきでしょうか?」
「いや、先に食べよう。クーの分はちゃんと残しておくから」
「熱々なんだから今食わないとな」
真っ先に手を出したレオリックスは骨付き肉にかぶりつく。
「お!旨いな!これ!」
肉汁たっぷりのジューシーさ、香辛料のピリリとする辛さが絶妙のバランスだ。
アーネストはシチューを全員分に取り分けて、匙ですくって口に運ぶ。
「これ…何の肉かしら?けっこうクセが強いけど…」
「……食べたことのない味です」
「この味……食べたことあるような……」
ポーとベアトリスも口に入れて首を傾げた。
「ポー忘れたのかよ?その肉、アザラシだろ」
レオリックスに言われてポーは思い出した。
この風味は確かにアザラシだ。
以前口にしたときは生肉のまま食べたので記憶が結びつかなかった。
「煮込むとこんな味になるんだ」
「…………あざらし?あの可愛いあざらし?目がクリッとしてキラッとした?」
「ーーーーーー………………」
そっと椀を床に置いたベアトリスとアーネスト。
二人ともショックを受けた顔をしている。
「………果物あるから」
表情の意味を理解したポーが林檎やキウイ、苺が盛られた皿を勧めた。
二人とも無言で手を伸ばした。
「ま、アレがないのは残念だな」
「アレ?」
「ポーも覚えてるだろ?アザラシの一番旨いところ」
「一番旨いところって……あぁ~……」
「え?え?なんですか?」
「嫌な予感がする………」
そこにようやくクーリーが姿を現した。
両手に深皿を抱えている。
「出来た。持ってきた」
「おかえりクー。って…なにそれ?」
「ごちそう」
トコトコと輪の中に入ると、冷めないように被せていた布を取り払った。
深皿に浮かぶのはトロトロになるまで煮込まれたあざらしの頭部がスープにぷかぷかと浮いていた。
「「キャアアアアアアアアッッッ!!!!!」」
よく煮込まれたあざらしの最も旨い頭部を見てベアトリスとアーネストは悲鳴を上げて気絶した。
「??。自然に感謝する」
クーリーは頭を手掴みするとそのまま齧りついた。
初めての人間にはなかなか強烈な光景だ。
「ん」
肉を噛みちぎると、頭をポーに渡した。
北部部族は一番旨いものは皆で分け合って食べる風習が伝統である。
ポーもレオリックスも以前、遠征の際、この伝統に習いあざらしの頭を食った事があるので今さら抵抗は少ない。
「とりあえず、二人を寝かせよう」
食事を中断してベアトリスとアーネストを隣の部屋の寝台に寝かしつけたポーだった。




