同盟暦512年・旅立ち、ロブホーク編31
シデはポー一人を同行者としてある所に向かっている。
「(さて……交渉をその目で見て、それでも婆に協力しろというかねぇ…)」
穴だらけの計画と伝えた自分の口に、シデは虚無感すら覚えた。
この計略はフロレンティナの復讐を果たすためのものはあくまで一面だけ。
本来の狙いは二つあった。
一つ目はフロレンティナの呪縛からの解放と自立、そして同胞からの身の安全の保証を得ること。
ハンニガンを殺した場合、彼に希望を見いだしていた同胞はどういう行動に出るのか。
逆恨み、裏切り者として今度はフロレンティナが復讐対象になることを防がなければならない。
そのために免罪符が必要だ。
フロレンティナが味わった地獄を明かせば免罪符になるが、それはフロレンティナの魂をズタズタにする事だ。
それはできない。
とすれば同胞に人望のある人物にハンニガンが裏切ったと証言させる方法。
その候補として、ハリファックスに目を付けた。
しかし問題があった。
ハリファックスは父、ハンニガンへの忠誠心が強い。
まずはそこを崩す前段階が必要だった。
その為にハリファックスを瀕死に追い込んだ。
狙い通りなら今頃、蘇生と手術が行われている。
そこでハリファックスは父親の真の姿を目撃し、対話、ひいては戦うことになるだろう。
そして、二つ目はとある人物に手土産を提供すること。
服の内側に隠し持つ銀製の小瓶。
中には、アルバートの血とあの首切り魔法が密封してある。
魔法を閉じ込める道具などシデは聞いたこともない。
市場に出せば天文学的価格を引き起こしす代物だ。
ポー達がハンニガンやハリファックスと戦闘中に、アルバートを隠してシデが回収した。
王の魔法、系譜の御業と称されるこれらの事は殆ど詳細不明だが、僅かな情報では"欠片"と呼ばれるものであり、欲している者がいる。
ハンニガンの協力者、または共犯者。
シデはハンニガン一党の黒幕に等しい後援者の存在と今から接触する。
なので同行者はポー一人だけだ。
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「ーーー……ほんと軍師ってのは人をよく騙すもんだ」
「?」
「断頭台国を攻め滅ぼした時、誰もが不可能を可能にしたと騒いだもんだ。天才なんぞと褒めそやしたりしてね。でも婆から言わせれば手段と方法さえ問わなければ大抵のことは可能なんだよ。婆は単に考えられるあらゆる事に手を出してやり遂げただけだ。後先考えずにね」
「力を尽くすのは当たり前です」
「そうかい?婆は未だにその代償を払っているよ?それでも普通のことだといえるのかい?」
「何が言いたいんです?」
「何事にも境界線がある。いくら戦争でも超えちゃいけない一線があったのさ。婆はその事を甘く見ていた」
名声が欲しかった。
栄光が欲しかった。
何より師匠に認めて欲しかった。
その一念で戦争に参加して、勝利の美酒を飲み悪臭のする泥水を啜り、迷って迷って最期に辿り着いたのは師匠の家だった。
「…………もうじき着くよ」
「シデさん、いったい何をしようとしてるんです?」
「人間は生涯、同盟関係を築き続けなきゃいけない生き物なんだよ。友好関係なんて幻想さ。人は利益を差し出し合う事で生存する」
辿り着いたそこはあばら屋だ。
「だから、常に可能生がある」




