同盟暦512年・旅立ち、ロブホーク編29
ハリファックスとは名前でない。
これは名誉ある称号。
断頭台国の最高の騎士に与えられる栄誉と責務。
親から与えられた名を隠し、ハリファックスに選ばれた時の喜び、誇らしさは忘れようがない。
「私は…ハリファックスなのだ!」
国を失い、流浪の民となったハリファックスにとって、この名と責務が全てだ。
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ポーは手数で攻め立て守りを崩し、クーリーが渾身の一撃をそこに叩き込む。
レオリックスが手足に狙いを定め矢を撃つ。
この連携を北の騎士達は"群れ"と称する戦い方だ。
「(くそ…こいつら連携馴れしている…!)」
ハリファックスはこの囲いから逃れようと立ち回るも、ポーとレオリックスがそれを阻む。
「(……焦りが見えた)」
ポーは踏み込んで槍の動きを止めた。
「クー!」
「"割れ"」
空中で逆立ちのような体勢になったクーリーが思いっきり付与術をかけた手斧を大盾にぶつけた。
「⁉、しまった…!」
ハリファックスが気づいた時には遅く、大盾に無数の亀裂が走った。
そこにレオリックスの矢が刺さり、大盾が砕け散った。
防御が崩され、ハリファックスは一瞬無防備になった。
ポーとクーリーの殆ど同時の渾身の一撃がハリファックスの肉体を鎧ごと斬った。
後ろへと倒れ伏したハリファックス。
雪に染みていく赤い血はおびただしい。
肩で息をしながら、ポーはハンニガンの方を向いた。
目にしたのは、ハンニガンに短剣を握り締め体当たりしたフロレンティナの姿だった。
「……ごほ……これは…油断しました……。……息子が負けたので驚いて……」
「ーーー死ね」
よろめき倒れたハンニガンの上に跨がり、フロレンティナは何度も短剣を突き刺した。
自分の髪が金色から赤色に染まるまで執拗に刺し続けた。
「………」
ポーはフロレンティナにベアトリスの姿を重ねた。
彼女もまた自らの手で殺す事を願って止まないのだろうか。
「アルバートいない」
クーリーの言葉通り、アルバートの姿が見えない。
ポーは手を止め呆然とするフロレンティナの肩を摑む。
「アルバートはどこにいるんです!」
「ここにいるよ…」
問い掛けに答えたのはシデだ。
近くの雪を摑んで引っ剥がすと、気を失ったアルバートが横たわっていた。
「これぐらいの誤魔化しは婆もできるさ」
「……色々と言いたいことがありますけど、後にします」
「そうしてくれるかい…あの娘も休ませたいんでね」
ポー達はフロレンティナ達と共に燃え盛る屋敷から歩き去った。
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燃え尽きて崩れ落ちた屋敷の前に倒れたハンニガンとハリファックス。
二人の前にオリバーが立っていた。
「忠告したのに、とんだ様ですね」
ハンニガンの首を切り落として髪を掴んで持ち上げ話しかけた。
「……そう怒るな。私は愉しかったんだ」
瞼が開き、ハンニガンは頭だけのままにも関わらず流暢に口を開いた。
「まぁいいでしょう。今回は私が後始末の役目ですからね。で、どうします?」
「息子が死んだ。私の脳を息子の肉体に移植して蘇生させろ」
「また面倒な事を言いますね」
「息子に成り済まし、フロレンティナに仕えるのだ」
ハンニガンの邪な考えを感じ取ったオリバーは笑顔になった。
「ふむ……まぁ、御役目は果たしたようだし」
オリバーはハリファックスの足を摑んで引きずり歩き出す。
「面白そうだ。私も一枚噛むとしよう」
混沌の種を撒けば根を張る。
オリバーは今からこの種がどう芽吹くのか楽しみで仕方なかった。
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