同盟暦512年・旅立ち、ロブホーク編28
ハンニガンの振るう剣筋を受け、ポーは荒々しい風を思い起こした。
これは戦場を知る者、最前線で弓矛を振るった武人が身に付けた力だ。
剣戟を受け止める度にポーの身体が後ろに下がる。
柄を握る手に汗が浮かぶ。
ハンニガンの体捌きは素早い動きではなく、緩慢な動きだ。
その分、一撃に体重を込めたもので受け止め損ねれば身体を両断する威力がある。
このまま剣で受け続ければ、いずれは折られる。
ポーの剣は良質の鋼を鍛えた剣だが、限界はある。
「シッ!」
ポーは刃が当たった瞬間、剣を半回転させ逸らす戦法に変えた。
「ほう…北方の、騎士の剣術は初めて見る」
「それならよく見ておけ!死出の旅路、その手土産になる!」
「北方人は実に威勢がいいな」
レオリックスの放った矢を剣の腹で防ぐ。
北方の騎士達の剣術は狩りから発展したといわれている。
その為、先手必勝の思想があり、時としてルール無用と思われる。
一騎打ち、決闘から発展した中原の剣術とは思想の違いから目の敵にされることも多い。
だが、その強さから一目置かれるのもまた北方の剣術の使い手なのだ。
「はあ!」
ポーは徐々に反撃に転じ始めた。
ハンニガンの剣筋に適応し出したからだ。
「ーーー(敵の攻撃に適応する能力…北方人の特質は厄介なものだ)」
踏み込んで剣を振り抜いたハンニガンの一振りに合わせるようにポーも剣を繰り出した。
脇腹を裂かれたハンニガンがよろめく。
「"断ち切る"」
ポーは付与術をかけ、振り上げた剣を縦回転させるように振り下ろす。
「(これで!)」
決着を確信したポーだったが、横から飛び込み体当たりしたハリファックスに宙に吹っ飛ばされた。
「か……は……」
突然のことに受け身の体勢が取れず、地面に叩き付けるように落下した。
「てめえ!」
レオリックスがハリファックスに矢を連射した。
左手の大盾を地面に立て、尽く矢を受け止めた。
「どういうつもりだ!」
「私は…断頭台国の筆頭騎士ハリファックスだ。父上を守る使命がある!」
「そうだ息子よ。私を守れ。全ての同胞達を守れ。断頭台国の最強の騎士なのだからな」
歯を噛み締め、ハリファックスはレオリックスに襲いかかる。
瞬時に距離を取り、矢を放つレオリックスだが、ハリファックスは止まらない。
槍が届く間合いに入るなり、凄まじい速さで次々と突きが放たれる。
弓使いが距離を詰められれば圧倒的に不利となる。
レオリックスの判断は素早く、弓を捨て槍を躱しつつ剣を振り抜く。
「(‼ くそ、重い…!)」
槍を剣で弾くも、その衝撃に驚愕するレオリックス。
「許せ!」
精妙な槍捌きで逆に剣を打ち上げられ構えが乱れたレオリックスの心臓部めがけて刺突を繰り出す。
「しま…!」
「うおりゃッー!」
レオリックスの頭に猛烈な勢いでドロップキックをくらわせたのはクーリーだった。
頭に甚大なダメージをくらうのと引き換えに槍を回避したレオリックスは地面にひっくり返る。
空中でバク転したクーリーは右の手斧で槍を殴りつけた。
「硬い」
ハリファックスの顔をめがけて短剣を投擲した。
大盾で短剣を防いだハリファックスはクーリーを見て眉をひそめた。
「お前はあの時の…」
「決着つける」
「いってえええええっ!!!!クーリーお前!!」
頭を両手でおさえてレオリックスは転げ回った。
「ありがとう!助かった!」
「レオ!クー!"群れ"だ!」
「「応ー!」」
ハリファックスの正面からクーリー、後ろからポー、弓を回収して距離を取ったレオリックスの三人が連携して攻めかかる。
「(……手早くハリファックスを叩き潰す。そして…)」
ちらりとハンニガンに視線を向けたポー。
「("あの匂い"を身に纏う奴は……必ず殺す)」




