同盟暦512年・旅立ち、ロブホーク編27
ハリファックスに先導され三人は森の中を走る。
ハンニガンがいるという屋敷は森の奥にあった。
「あんた達はフロレンティナさんに何をした?」
「……詳細は知らん。だが、非道な事をされたんだろう。父上は祖国の復興を第一に考えておられたからな。手段を選ぶ人ではない」
「だからこんな事態になってんじゃねぇのかよ」
「黙れ!貴様らに何がわかる!国を失い、居場所を無くした者達の気持ちなど!」
「それでフロレンティナさんやアルバートを苦しませる理由にはならない」
「……おい!あれを見ろ!」
レオリックスが空を指差す先に、煙が立ち上っていた。
「あの方角は…屋敷の方だ!」
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燃え盛る屋敷に辿り着いた三人。
その前で倒れ伏すシデとフロレンティナ。
そして棒立ちのアルバートに跪くハンニガン。
異様な光景に言葉を失った三人だが、すぐにポーがシデとフロレンティナに駆け寄った。
「二人とも、しっかりして!」
胸を一刀で斬られており、傷は深く出血も酷い。
「レオ!」
「こっちは任せろ!」
二人の手当を始めたポーを守るようにレオリックス弓を構えてハンニガンを警戒する。
「戻ったか。ハリファックス」
「父上、これはなんです?なにをしたのです?」
「即位式だ。簡素だがね。アルバート王の誕生だ。これで堂々と戦争ができる」
ハリファックスはフロレンティナが何故、倒れているかを知りたかった。
「父上が殿下を傷つけたのですか?」
「殺意を向けられたのでな。主従の絆が断ち切られたのは残念だ。実に悲しい」
本当に父なのかと疑念を覚えるほど、ハリファックスはハンニガンから違和感を感じた。
「時に息子よ。兵はどうした?」
「……軍勢でしたら、集まっております。騎士四十六人、兵三百人ほど。シデ・ペネンヘリの策に嵌まり、何割か死なせてしまいましたが」
「些末な事だ。ではハリファックス、軍勢を指揮してロブホークを焼き払え」
「………は?」
「男は皆殺しにして女は戦利品として持ち帰れ。老人と子供は生かして捕らえろ。奴隷として売るのだ」
唖然と立ち竦むハリファックスに背を向け、ハンニガンは涙を浮かべて震えるアルバートに一礼した。
「陛下。御命令を」
「う……うう……」
ハンニガンはため息をつくとアルバートの細い首を手で掴み、握り締めた。
呼吸ができず苦しむアルバート。
「‼、父上!」
「御命令下さい。陛下。あなたの初めての下知は虐殺から始まるのですよ」
「……ぼくは……王様なんか……なりたくない……」
「聞き分けの悪い子だ」
ハンニガンはアルバートの首を絞めながら持ち上げた。
「躾が必要でしたか」
ハンニガンはアルバートの片目を抉ろうとしたが、そこにポーとレオリックスの二人が突進して殴り飛ばした。
吹っ飛ぶ寸前にアルバートはポーが取り戻し、ハンニガンは雪の上を転がった。
「やれやれ…年長者をなんだと思っているのかね?敬意がない。尊敬が感じられないぞ」
「あるわけねーだろ。おっさん」
「いい加減、我慢も限界だ」
パンパンと膝を叩いて立ち上がったハンニガンの余裕は崩れない。
「お前達は訳ありの身だろう。我々も同様だ。穏便に解決しようじゃないか。金か?女か?望みを叶えてややろう。どうだ?」
「断る」
ポーはハンニガンの前に立ち塞がった。
「あんたからは嫌な感じがする。覚えのある感じだ。あのクソ野郎とよく似てる」
「あんたは死んだ方がいい」
ハンニガンは嘲笑してポーを挑発するように手招きした。
「嫌われたものだ。いいだろう。私の手で嬲り殺してやろう」
二人は剣を抜いた。
「楽しませてくれ。中年は簡単には満足できんよ?強欲なのでな」
ポーとハンニガンは強烈な一撃をお互いにぶつけ合った。




