同盟暦512年・旅立ち、ロブホーク編25
「! 伏せろ!」
弦を引く音に気づいたレオリックスが叫んだ。
頭上から降り注ぐ矢の雨がポー達や生き残るも自失呆然としていた兵達に降り注いだ。
「ぎゃあ!」
「ぐわ!」
ポーは剣で、ハリファックスは盾で、レオリックスは死体を盾代わりにして矢の直撃を避けた。
ぞろぞろと別の入り口から現れたのは粗野な風貌の戦士達。
「おい、まだ生きてんぞ。下手糞が、しっかり殺れよ」
「狭いんだよ!ここ!」
「うるせぇ。さっさと全員、殺すぞ」
リーダー格の大男、ガレー(男・43歳)号令を受けて、戦士達が一斉に襲いかかった。
矢で傷を負った断頭台国の兵は抵抗しようとするも動けず、一方的に剣の餌食となる。
「貴様らあ!」
同胞が殺されていく光景にハリファックスは激しく怒った。
そんなハリファックスを見て嘲笑った戦士が襲いかかるも、僅かな瞬間に槍先で喉や口、目を貫かれた。
しかしハリファックスの怒りはそれでは収まらない。
即死しなかった者はさらに首や胸を骨ごと砕かれて刺し殺された。
ポーやレオリックスも戦士を返り討ちにする。
ガレーは剣を肩にのせて三人を観察する。
「おい。ベトとナムの連中をあっちに回せ」
とりわけ腕の立つ戦士二十人が武器を手に走り出した。
「ポー!逃げるぞ!」
「ああ!あなたも来い!」
「同胞を見殺しにできるものか!」
「もう助けられない!」
「だからどうしたあ!」
まさに猛獣が獲物に噛みつくような勢いで、ハリファックスは敵を迎え撃ち蹂躙する。
精妙な槍の冴えなど微塵もなく、腕力に任せて槍を振り回して敵をなぎ倒していく。
だが、敵もさること。
恐怖に顔を引きつらせることなく、冷静に陣形を組んでハリファックスに対峙した。
前衛の盾、後衛の槍の連携プレーで巧みにハリファックスの動きを縛り、槍で突いていく。
「ぐ……おのれ……」
これにはハリファックスも冷静さを取り戻して、正統な構え取った。
「お前の命は俺らの金と酒になる」
「死にな」
追い込まれるハリファックスに一際体躯の良い三人の戦士が斬り掛かる。
レオリックスが矢を三本同時に番えて射る。
見事に三人の戦士の身体に刺さった。
そこに一気に両者の間に踏み込んだポーが二人を斬り倒し、残り一人をハリファックスが槍で貫いた。
「退くんだ!」
「くそ!くそ!くそ!くそがアーーー!」
ハリファックスを蹴飛ばしてからポーは全力で走り出す。
もはや状況を覆せないと悟ったハリファックスは身を引き裂かれる思いでポーの後ろに続く。
「逃がすんじゃねぇ!」
「逃がしてもらうぜ!」
火薬粉を詰めた小袋を投げたレオリックスは、それに狙いを定めて矢を射った。
鋭く冷たい矢が小袋をかすめるなり、爆発が起きた。
来た道とは違う穴に飛び込み、走る三人。
風の流れを肌に感じ、道は上に、地上に続いていた。
泥と埃にまみれながら何とか地上に出た三人。
レオリックスは雪をかき集めて入口を塞ぐと、そこに水をかけた。
すぐに水は冷え固まり、入口は硬く閉じた。
「シデの婆さんにまんまとしてやられたぜ…」
「…………(僕たちを誘い込んだ理由はなんだ……?)」
「というより、シデの婆さんはどこにいるんだ?。思い当たる節は一つもないぜ」
「ある」
槍と盾を背負ったハリファックスは歩き出した。
「どこにいくつもりだ?」
「父上のおられる屋敷。我等の拠点だ」
ハリファックスの目は血走っていた。
「あの女の背後にいるのはおそらく…フロレンティナ王女殿下だ」




