同盟暦512年・旅立ち、ロブホーク編24
「ーーーお前達は……」
血で汚れた鎧姿のハリファックスは震え怯える部下達を守るように前に出でてポーとレオリックスを睨んだ。
「何故ここにいる?お前達はフロレンティナの手の者か?」
「違う。……シデさんを追ってきた。アルバートが連れ去られた」
ポーがアルバートの名前を告げると、ハリファックスの部下達が甲高い悲鳴を上げて身体を丸めて震えた。
「…………殿下の名は口にするな。皆、恐ろしい目にあい、心を裂かれた」
「アルバートがやったのか?」
「……いや……おそらくは違うだろう。殿下は『やらされた』のだ」
それが誰なのかハリファックスは察していたが、口にはしなかった。
「シデといったな?シデ・ペネンヘリが殿下を攫っただと?どういうことだ?」
「こっちが知りてえよ。つうかお前ら何者なんだよ」
「我々は断頭台国の騎士。祖国復興の大義を成すために集った烈士だ」
「やっぱり断頭台国の残党か…」
「んで、その烈士様に聞きますが、こんなとこでなにしてたんだよ?」
「指導者である父ハンニガンがここに兵を集めろを命じたのだ。私は同胞を集めたが、現れたのは父ではなく殿下と、あの憎きシデ・ペネンヘリだ。そして、殿下が魔法を使われて......」
この惨状を築いたのだと、ハリファックスは唇を噛んだ。
「シデさんはどこにいる......」
ポーが問うのを遮るように、ハリファックスの握る槍が射られた矢の如く突き出された。
寸前で剣で防いだポーは素早く戦闘態勢に移った。
「......どういうつもりだ?」
「簡単だ。この怒りをぶつける相手が欲しかった。それが貴様らだ」
「八つ当たりかよ!」
「そうだっ!」
振り下ろした槍がポーの剣に叩き付けられる。
「誰でもいい!この怒りを吐き出さねば怒り狂いそうだ!」
ハリファックスは精妙な槍捌きでなく、雑で荒々しく槍を操った。
「ポー!」
「来るな!」
レオリックスの加勢を拒み、ポーは防御から攻撃に転じる。
ポーは負けないと確信がある。
今のハリファックスは我慢の限界を迎えて感情を撒き散らしているだけだ。
足運び、体捌き、槍は振り回している。
攻める槍を受け流しながら、ハリファックスに確実に一撃を加えていく。
「"切れ"」
苛立ったハリファックスが真横から薙ぎ払ったところで、ポーは付与剣術を唱え、下から上に切り上げた。
ハリファックスの手から槍が離れ落ちた。
ガランと転がる槍を拾おうとせず、ハリファックスは深々と息を吐いた。
「(八つ当たりというより…冷静になるための手段だった。……やっぱり優れた騎士なんだな)」
槍を見た。
珍しい赤銅作りの槍だった。
「…………済まん」
「いいよ。それでシデさんはどこにいる?」
「わからん。あの殺戮で俺は混乱していたし目を配る余裕も無かった」
「心当たりは?」
「目的がわからん。いや、我々を皆殺しにするつもりか?。人の皮を被った獣に相応しい業だな」
「(今さら?シデさんがこいつらを殺して何になる。戦争は終わったのに。……もしかして彼らの中では戦争は終わっていないのか?。……?……シデさんの、あの言葉……)」
ポーの脳裏にフロレンティナの顔が思い浮かんだ。




