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アラン戦記  作者: 夢物語草子


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53/84

同盟暦512年・旅立ち、ロブホーク編23

ベアトリスが告げた言葉にポーは言葉を出せなかった。

ポーは復讐を決意している。

その根底にあるのは後悔と罪の意識、そして贖罪の念だ。

「(ヘアは……僕に償うことを望んでいる?)」

ベアトリスの言葉の意図はわからなかった。

「婆さんの家に行くか?」

装備を整えたレオリックスが聞く。

「いや、アルバートを連れ去ったんだ。家に戻るとは思えない。別の所に向かったと考えるべきだ。せめて足取りを追えれば…」

「なら追うぞ」

事もなげにレオリックスが応じた。

「簡単じゃない」

「ポー。俺の家系は狩猟の一族だ。ガキの時から爺さんに親父にお袋に姉貴に全部叩き込まれた。超一流の狩猟の騎士なんだよ」

それなら話は早いと、ポーは剣を手に取った。

「ヘア、二人をお願いします」

「はい」

「問題発生だ。お嬢様の護衛はどうする?二人で出たら護衛がいなくなるぞ」

「もんだいない」

ぱっちりと目を覚まして、寝台から飛び上がって一回転、着地したクーリー。

Vサインを二人にしてみせた。

「頼むよ。それとこれ、いざという時、必ず使うんだ」

ポーはヘアに四角形のパズルのような石を渡した。

「行こう!」

ーーーーーーーーーーーーーーー

二人は雪の中を走った。

シデが歩いた足跡はあっという間に雪で隠され、それを頼りに追うことは不可能だった。

しかしレオリックスは狩人の技量を発揮、シデが残した僅かな痕跡を見つけて進んでいく。

「あの婆さん、痕跡を残さないように消して歩いてやがる。警戒心が半端じゃない」

「シデさんは兵を率いて自ら斥候もしていたそうだ。何度も命の危機に遭遇したと」

「その時の経験を忘れずに活かしてるってことだな。大した婆さんだ」

「あぁ。すごい人だよ」

だからこそ惜しいとポーは感じた。

仲間になって欲しいと思った。

「死んで欲しくない」

「おう。止めようぜ」

追跡を始めてしばらく走り続けて、二人はポツンと木々の間に建つ小屋に辿り着いた。

「あそこだ。足跡はあの小屋に続いてる」

レオリックスは弓を握る。

ポーは篭手の具合を確認すると、扉を慎重に開けた。

室内は何も無く、椅子が一脚あるだけだ。

「……誰もいない」

抜き身の短剣を身構えつつ、部屋を調べて回る。

床や壁を叩いて抜け道がないか探していると、レオリックスが小屋に入ってきた。

「どうだ?」

「………! 見つけたぞ」

床の一部が空洞であることを突き止めたポーは剣で床板を壊すと、地下に下りる階段が現れた。

むわっと血の臭いが漂ってきた。

「う……」

「強烈だな」

多くの人が血を流した見えない証だ。

おそらく生きてはいないだろう。

ポーは剣を抜き、レオリックスも弓を引っ込め剣を抜く。

「行こう」

松明を点けて、二人は階段を下りた。

水滴が零れ落ちる音が波紋のように広がり、鮮明に耳に響く。

階段は下に長く長く続く。

ようやく到着したのは人の手で造られた広間。

折り重なる首と胴体が切り離された死体の数々。

そして生き延びた断頭台国の残党、十数名が呆然と座り込み、天井を仰いでいた。

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