同盟暦512年・旅立ち、ロブホーク編19
クーリーの教え方はまるで手加減というものを知らず、徹底して実戦ばりの試合をするのみだ。
武器も渡されず一方的に叩かれるアルバートもたまらず「ぼく素手です!」と訴えたが、クーリーは無視を決め込んでいる。
「おいおい…容赦なさすぎだろ…」
「止めようか…」
ポーとレオリックスは木剣を手に頷き合って二人の間に割り込んだ。
「クー!ここまで!」
「むー!」
「この馬鹿!いじめてどうすんだ!」
二人に叱られクーリーは不満だらけの顔になりながらも手を引いた。
「あとで棗菓子買うから」
「‼。納得する」
甘いものに目がないクーリーを説得するには甘いもので釣るのが一番だった。
「大丈夫か?」
「うぅ…はいぃ…」
ポーはアルバートの手を握ると、視界が歪み立ちくらむ。
ポーの首に現れる異様な紋様の輪っか。
「(………?……⁉)」
一瞬、意識も飛びかけたが耐えた。
輪っかはすうっと跡形もなく消えた。
「?あ、あの?」
「あ、いや」
アルバートを立ち上がらせた。
摑んだ方の手に視線を落とす。
「(今のは……アルバートが?)」
不安と疑念をポーは抱いた。
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閉ざされた屋敷。
森の中に建てられた建物でハンニガンは客を迎えた。
「どうやって我々と接触する手段を知ったのか…教えてほしいものだ」
「そんな些末なことを知ってどうするんです?クーデターになんの影響もありませんよ?」
「同盟の間者であれば影響はあるだろう」
「父上!こんな奴の言葉など聞くことはありません!何が目的がわかりませんが、すぐに殺すべきです!」
ハリファックスは客、オリバー・ヘルブリンディ(男・年齢不詳)に今にも槍を突き立てる勢いだ。
「賞賛に値する判断力と決断力。ささやかですが拍手を贈りましょう」
パチパチパチと拍手するオリバーに侮辱と受け取ったハリファックスは眉を逆立てた。
「貴様……」
「んん?何かご不快なことでも?」
「息子よ。部屋を出ていろ」
「しかし!」
「出ろ。父の言葉が聞こえなかったか?」
苛立ちを隠さずにハリファックスは部屋を出た。
「申し訳ない。我が息子ながら腹芸というものを知らんのだ」
「ご立派なご子息ではないですか。さて、あらためて苦労をねぎらわせてもらいますよ。我が同胞」
「感動で気が狂いそうになるよ。我が同胞。あと少しで混乱と叫喚の光景を見せられそうだ」
「ハンニガン。あなたは正しく敬虔な教徒だ。その名は歴史のみならず経典にも記録されるだろう」
オリバーは指を動かして、空中に陣を描く。
映し出された映像は、部屋の外に待機するハリファックス達の姿。
「生真面目だね。盗み聞きもしないとは」
「堅物なんだよ。息子は」
「話していないのかい?」
「話す必要が?」
「ないね。ハンニガン、収穫の時期は近い。しくじるなよ」
ハンニガンはグラスを二つ用意して、蒸留酒を注ぐ。
「あまねく世界を辱め弄びたもう」
「そして人類に幸福を」
ハンニガンとオリバーはグラスを掲げた。




