同盟暦512年・旅立ち、ロブホーク編18
「これで三冊目だ」
寝不足気味の顔を叩いてポーは天を仰いだ。
シデに渡された十冊の書物の内、何とか解読できたのはようやく終わった三冊目。
椅子に座り寄り添うように眠るベアトリスとアーネスト、クーリー。
テーブルに突っ伏したレオリックスは辛うじて睡魔を退けている。
とはいえ油断すればあっという間に眠りに落ちるだろう。
「んで?残りの七冊は解読不可能か?」
「お手上げだよ。ヘアも全くわからないと言っていたし」
「だとすりゃシデの婆さんに聞くしかねえな」
「でも、学ぶことばかりだった。僕も兵法書は読んだことあるけど、比べものにならない。それに内容も不思議だ。兵の動かし方や拠点や補給の重要性、人心掌握の方法など細かく書かれているのに、なぜか魔法に関する事は一切書かれてない。魔法だって重要なはずなのにどうしてだろう?」
「簡単だろ?魔法が大嫌いなんだよ。軍師に時々いるだろ?そういう奴」
「そうかも知れないけど、少しは記述があってもいいはずだろう?『魔法に頼らず』とか…」
「さあな…それより…少し寝ようぜ。せめて昼まで…」
遂に限界がきたレオリックスは寝息を立てだした。
こうなると起きているのはポーだけだ。
ポーも強い睡魔で頭がふらふらしている。
背もたれに身体を預けて寝ようとしたとき、ふと窓を見れば、家の中を覗く大きな目と目が合った。
アルバートだった。
見つかった事に驚いて慌てたアルバートは足場にしていた木箱から落ちた。
「ん……なに……どうしたの…?」
「何でもない」
寝ぼけ眼のアーネストに応えると、ポーは剣を身に付けて外に出た。
頭をぶつけて痛がるアルバート。
「悪戯でもするつもりだっのかい?」
「ち、ちがう!ぼ…ぼくは…えっと……」
「ぶつけたところを見せろ。…うん、こぶができてるな。手当するから家の中に入れ。話しは後だ」
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「痛い痛い痛い!」
「男の子でしょ!我慢しなさいよ!」
打撲用の塗り薬を塗られて痛がるアルバートに、塗ったアーネストは包帯を伸ばして頭に巻く。
「で?なんで覗いてたの?」
「……その……助けてくれて、ありがとう」
アルバートは助けられた礼を言うためにここまで来たのだった。
「お礼ならクーちゃんに言って。気づいたのはあの子だから。でも今は眠ってるから起きてからね」
「……あの……みなさんは戦士なんですか?」
「戦士というか…騎士だよ」
「騎士!ハリファクスさんたちとおんなじ騎士なんですか!」
アルバートは驚き複雑な視線を向けた。
「やっぱりあいつら騎士だったのね」
アーネストがポーに「知ってたでしょ?」と疑惑の目を向けた。
「彼らは元はある国の騎士だったんです。国が滅んでも母上やぼくを守ってくれてるんです」
「守るって…攫われそうだったじゃない」
「きっと…理由があったんです」
「理由がなければ攫わないわよ」
アーネストは犯人を庇うアルバートに対して辛辣な口調だ。
「ぼく、強くなりたいんです」
「え?」
「だから戦い方を教えてください!母上をお守りしたいんです!」
なるほど、本当の用事はこれかとポーは察した。
アーネストと顔を見合わせる。ポー「どうしよう?」、アーネスト「あんたに任せる」と目で語り合ううちに、
「感心」
といつの間にか目を覚ましていたクーリーが仁王立ちしていた。
「え?あの?え?」
「鍛錬始める」
クーリーはアルバートの腕を摑むと扉を開けて投げ飛ばした。
「クー⁉」「クーちゃん⁉」
ギラギラと輝く目のクーリーは戦闘狂の姿だ。
アルバートは怯えて後ずさりする。
闘志漲るクーリーは両手に木の棒を握った。
「覚悟」
アルバートの悲鳴が響いた。




