同盟暦512年・旅立ち、ロブホーク編11
ポーはシデの家を訪ねて、直接、教えを受けるようになった。
名も知らない名将と称された人物達の戦いの歴史をシデは語り、ポーは自分なりに解釈し注釈を入れる。
また、シデから別の書物を渡され、ベアトリスやレオリックスと共に解読する。
アーネストとは毎日、剣の稽古を繰り返し、解読に飽きたクーリーも参加して苛烈さが増した。
そんな日々を過ごしていた。
ーーーーーーーーーーーーー
「ねぇ、何か言った?」
稽古を終え一休みしていたアーネストは、ポーに怪訝な顔で聞く。
「え?なにも言ってないよ」
「そう?今、声が聞こえた気が…ってクーちゃん?」
ガサゴソと一対の手斧を装備したクーリー。
「あっち。追われてる。誰か」
言い残してクーリーは猟犬の如く駆け出した。
ポーとアーネストも急いで後を追った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「離してよー!」
「我々と来て頂きたい!それがあなたの為なのです!」
抵抗するアルバートの手を摑み、ハリファックス・デイル(42歳・男)は連れて行く。
「(アルバート様を連れて来いなどと…父上は何を考えておられるのか。フロレンティナ様の許しもなくこんなことを)」
内心の同情を隠しつつ、ハリファックスは疑念を追い払う。
騎士は命令に従うだけだと、己に言い聞かせた。
配下の兵に命じ、アルバートを馬に乗せようとした時、アルバートを持ち上げた兵士の背中に手斧が深々と突き刺さった。
倒れる兵士。
ハリファックスは手斧の軌道、飛んできた方向を見れば、雪の中を突っ込んでくるクーリー。
二本目の手斧が投擲され、馬の首を両断した。
「な…!…くそ!何者だ!」
いち早く動いた配下の兵が剣を抜いてクーリーに向かった。
クーリーは短剣を抜いて挑みかかる兵と斬り合う。
「ん。遅い」
右足で兵の股間を蹴り上げ、兵の動きが止まると両手の短剣で肩を切り裂く。
兵を土台にして跳躍すると、投げた二本の手斧を回収して、短剣を鞘に収めて手斧を握り締めた。
「躾のなってない猫のような奴だ!」
ハリファックスは踏み込み、槍で突きにかかる。
素早く正確な連打にクーリーは間合いに入れない。
「むー…」
「こいつは私が相手をする!お前達はアルバート様をお連れしろ!」
「は、はい!」
そこにようやく追いついたポーとアーネストが現れる。
「ちょっとクーちゃん!これなに⁉」
「強い」
「何なんだ!貴様らは⁉」
「こっちが聞きたい。それに…その子をどうするつもりだ?」
「関係なかろう!」
「フロレンティナさんの知り合いか?」
その名を出すとハリファックスの顔色が一変した。
「…………何故その名を?」
「顔見知りだ。その子も知ってる。フロレンティナさんの息子だろう」
「は…殺すつもりはなかったが、口封じが必要なようだ」
「殺す」
話に割り込み、クーリーが手斧を頭上から叩き付けるも、盾を構えた兵が防ぐ。
ポーとアーネストは抜剣して構え、兵と睨み合う。
ハリファックスとクーリーは一進一退の攻防を繰り広げる。
されど、徐々にハリファックスが優位に立ち始めた。
クーリーは性格そのままに戦い方も純粋だ。
それ故に読まれやすい。
ハリファックスはその弱点を的確に見抜き攻める。
「"奔れ"」
瞬間的に槍先が伸びた。
クーリーは直撃を避けたが、脇腹を軽く裂かれた。
「今のは付与槍術?」
才能ある騎士や戦士が使いこなす付与術をハリファックスは使って見せた。
「ーむかつく」
クーリーは目をつり上げて、両手の手斧を振り上げた。
「"割れ"」
全力投球してようとした時、
「止めて下さいっ!」
息を切らして駆けつけたフロレンティナが大声で叫んだ。




