同盟暦512年・旅立ち、ロブホーク編9
「…なんてこったい…」
手渡された用紙に一通り目を通したシデは困惑顔でうめいた。
「一月で三分の一も解読しちまうたぁ…信じたくないね…」
「仲間に助けられました」
「仲間あ?。……あの顔を隠した外套娘のことかい?」
シデはベアトリスの事を指して言った。
「どうしてそう思うんです?」
「お前さんなら渡した時に少しは解読したろう。レオは頭は悪くないが武人寄りの頭だ。セミロングの娘もどっちかというとレオと同じだね。小っこい娘子は論外。読む前に寝ちまうだろ。残るは外套娘だ」
「…………なるほど。鋭い観察眼ですね」
「降参だ。時間はかかるが解読できるだろう」
シデは用紙を放り投げ両手を挙げた。
「んで?婆から何を教えて欲しいんだい?」
「知恵を」
「知識を教えてやる」
「知恵は自分で生み出せと?」
「知識の子供が知恵なんだよ」
ポーはシデに師事することに成功した。
会話が一段落したとき、扉が開いた。
フロレンティナだ。
今日は荷物を持っていない。
シデは少し緊張した表情を見せた。
「今日は来る予定じゃないよ?どうしたんだい?」
「……アルバートはどこにいるの?」
フロレンティナは無機質な目でシデを見る。
「どうしてここに来てると思うんだい?」
「私の目を盗んでここに来ていることは知ってる。止めてと聞いてくれない。……あなたが言い含めたんじゃないの?」
「どうして婆がそんなことするんだい?」
「母の心を操ったでしょう。忘れたとは言わさない」
「…………呼んでくる。ここで待ってな」
シデは重い腰を上げ、外に出た。
するとフロレンティナは力が抜けたように床に膝をつき、深い息を吐いた。
その様子を心配したポーは水差しを取り、木杯に注いでフロレンティナに差し出す。
「あ、ありがとう…」
フロレンティナは時間をかけて水を飲み干すと、安堵した。
「ところで、あなたは?」
「ポーといいます。北の都から来ました」
「北の都…エベネーザから?遠くから来られたんですね」
シデと向かい合っていた時とは別人のように穏やかな顔つき。
「あの人とはどのような…その関係ですか?」
「教えを受けたくて押しかけたんです」
「……教え……あの人にですか……」
どうやらシデとフロレンティナは複雑な間柄だとポーは察した。
「あの…あなたはシデ殿のご家族では…?」
「……いいえ」
「私の名はフロレンティナ。あの人に故郷を奪われた者です」




