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アラン戦記  作者: 夢物語草子


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38/84

同盟暦512年・旅立ち、ロブホーク編8

時間の経過は早く半月が過ぎた。

『孫子』の解読に尽力するポーとレオリックスとベアトリス。

解読した言語を一つ一つ用紙に書き、『孫子』の文面を西の言葉に書き直していく。

「やっぱりカチュウの言語に似ています。似て非なるところもありますけど、些細なものです」

「ヘア…お嬢さんは東の日の出(アス)の文化に詳しいんですか?」

「興味がありまして。デナンの叔父様が東方との貿易行路を開拓しようとしてますし…集めた東の書物も頂いて。とても興味深くて何度も読んでいたら覚えたのです」

「だからって簡単に覚えられるもんじゃないでしょうよ…」

「そうでしょうか…?あ、これでこの部分は解読できました」

ベアトリスが用紙をポーとレオリックスに見せた。


孫子曰(そんしいわく)兵者國之大事(へいはくにのだいじなり)死生之地(しせいのち)存亡之道(そんぼうのみち)不可不察也(さっせざるべからずなり)


孫子計篇を見事に解読したベアトリスに二人は思わず喝采する。

「一月足らずでここまで解読するなんて。シデ殿も驚くな」

「(聡明なお姫様と聞いちゃいたが…こりゃ御用学者も真っ青だ)」

そこに昼飯の支度を終えたアーネストとクーリーが居間に現れる。

「ポー、準備してくるから待ってて」

「外で待ってる」

ポーは剣を腰に下げると軽装の武装を身に付ける。

外に出ると肌寒い風がポーにまとわりつく。

「(今日は雪風が強いな)」

吐く息は白い。

「お待たせ」

同じく剣を腰に下げ軽装の武装をしたアーネストが現れた。

この半月、『孫子』の解読と共に日課となったポーとアーネストの訓練だ。

二人は向かい合い、対峙すると剣を抜いて構えた。

先手を打ったのはアーネストで、頭上から振り下ろした。

ポーは正面から受け止めると前に踏み込んで押し込む。

これには力に劣るアーネストは後ろに追い込まれるも、鍔迫り合いから逃げると間髪入れず打ち込む。

力と速度はポーに軍配が上がるが、剣の操り方の巧みさはアーネストが上手だ。

元は騎士を目指していたアーネストは、当時の先生に才能を認められていた。

おそらく正式な訓練を受け続けていれば、ポーに負けず劣らずの実力を身に付けていただろう。

攻防が三十合を過ぎたところで、アーネストの息が上がり、ポーは渾身の力でアーネストの剣を叩き落とした。

「どんどん勘を取り戻してる」

「………まだまだよ!」

アーネストは素早く剣を拾い上げ振り上げた。

ポーの剣を弾くかと思いきや、刃に刃を絡ませて脇に逸らすと踏み込んで柄頭をポーの喉元に突きつけた。

「これで一勝一敗ね」

笑顔で勝ち誇ったアーネスト。

「次は僕が勝つさ」

「やれるものならやってみなさいよ!」

一旦、距離を取り二人は再び攻防に興じる。

二人とも、北方流派を学んだ同門であり勝手知ったる関係だ。

その為、訓練を重ねれば重ねるほど互いの実力の向上へと繋がっていた。

こうして『孫子』の解読とポーとアーネストの訓練の日々を繰り返して過ごし、さらに半月が過ぎた。

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