同盟暦512年・旅立ち、ロブホーク編8
時間の経過は早く半月が過ぎた。
『孫子』の解読に尽力するポーとレオリックスとベアトリス。
解読した言語を一つ一つ用紙に書き、『孫子』の文面を西の言葉に書き直していく。
「やっぱりカチュウの言語に似ています。似て非なるところもありますけど、些細なものです」
「ヘア…お嬢さんは東の日の出の文化に詳しいんですか?」
「興味がありまして。デナンの叔父様が東方との貿易行路を開拓しようとしてますし…集めた東の書物も頂いて。とても興味深くて何度も読んでいたら覚えたのです」
「だからって簡単に覚えられるもんじゃないでしょうよ…」
「そうでしょうか…?あ、これでこの部分は解読できました」
ベアトリスが用紙をポーとレオリックスに見せた。
孫子曰、兵者國之大事。死生之地、存亡之道、不可不察也。
孫子計篇を見事に解読したベアトリスに二人は思わず喝采する。
「一月足らずでここまで解読するなんて。シデ殿も驚くな」
「(聡明なお姫様と聞いちゃいたが…こりゃ御用学者も真っ青だ)」
そこに昼飯の支度を終えたアーネストとクーリーが居間に現れる。
「ポー、準備してくるから待ってて」
「外で待ってる」
ポーは剣を腰に下げると軽装の武装を身に付ける。
外に出ると肌寒い風がポーにまとわりつく。
「(今日は雪風が強いな)」
吐く息は白い。
「お待たせ」
同じく剣を腰に下げ軽装の武装をしたアーネストが現れた。
この半月、『孫子』の解読と共に日課となったポーとアーネストの訓練だ。
二人は向かい合い、対峙すると剣を抜いて構えた。
先手を打ったのはアーネストで、頭上から振り下ろした。
ポーは正面から受け止めると前に踏み込んで押し込む。
これには力に劣るアーネストは後ろに追い込まれるも、鍔迫り合いから逃げると間髪入れず打ち込む。
力と速度はポーに軍配が上がるが、剣の操り方の巧みさはアーネストが上手だ。
元は騎士を目指していたアーネストは、当時の先生に才能を認められていた。
おそらく正式な訓練を受け続けていれば、ポーに負けず劣らずの実力を身に付けていただろう。
攻防が三十合を過ぎたところで、アーネストの息が上がり、ポーは渾身の力でアーネストの剣を叩き落とした。
「どんどん勘を取り戻してる」
「………まだまだよ!」
アーネストは素早く剣を拾い上げ振り上げた。
ポーの剣を弾くかと思いきや、刃に刃を絡ませて脇に逸らすと踏み込んで柄頭をポーの喉元に突きつけた。
「これで一勝一敗ね」
笑顔で勝ち誇ったアーネスト。
「次は僕が勝つさ」
「やれるものならやってみなさいよ!」
一旦、距離を取り二人は再び攻防に興じる。
二人とも、北方流派を学んだ同門であり勝手知ったる関係だ。
その為、訓練を重ねれば重ねるほど互いの実力の向上へと繋がっていた。
こうして『孫子』の解読とポーとアーネストの訓練の日々を繰り返して過ごし、さらに半月が過ぎた。




