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アラン戦記  作者: 夢物語草子


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37/84

同盟暦512年・旅立ち、ロブホーク編7

「これは……」

ポーは一冊を手に取り表紙をじっと眺めた。

「…………驚きました」

「全く読めない」

「がはははははは!だから見せたのよう!」

木杯に赤葡萄酒を注ぎ、シデは大笑い。

「これは…異国の書物ですか?」

「異国も異国、決して行くことができない遙か彼方の国のものさ。婆の師匠が残した形見でもある」

一冊を手に取り、ポーに突きつける。

「これは「孫子」って書物さ。紀元前500年ごろの中国春秋時代の軍事思想家孫武の作とされる兵法書。武経七書の一つだよ」

「???」

ポーはシデが何を言っているのかまるで分からない。

「くく、だろうね。婆も最初は一文も読めなかった。師匠から文字を教わってやっと読めたのさ」

そうしてシデは持つ書物をポーに押し付けた。

「やろう。読んでみろ」

「え?」

「さて…婆は朝寝をするから帰れ帰れ」

そうしてシデに外に追い出されたポーは書物を手にしばし呆然と佇んだ。

ーーーーーーーーーーーーーーー

小屋に戻ったポーは出来事を皆に説明すると、テーブルに孫子を置いてページをめくる。

「なんだこれ?まるで意味がわからないぞ」

「う~」

早々に音を上げたクーリー。

レオリックスも渋い顔だ。

「こんな文字見たこともない。せめてどこの国のものかわからないのか?」

「遙か彼方の国のものと言ってた。国名までは聞いてない」

ポーも持てる学識を総動員して考えるものの糸口すら掴めない。

そうしている間に奥の部屋の扉が開いてベアトリスとアーネストが居間に現れた。

「さて、ちゃっちゃと朝ご飯作るね。ほらテーブル片付けて」

「…………それは、なんですか?」

テーブルからものをどける中、ベアトリスは『孫子』を手に取った。

パラパラとページをめくり目を細めた。

「これは…東の日の出(アス)のヤシヤの国々の言語と似ていますね」

十二同盟諸国を含めた西の大陸は、西の日没(エレブ)と称され、東の大陸は東の日の出(アス)と称される。

二つの大陸は海を隔てており、その中間には大断絶と言われる底なしの長大な割れ目が存在する。

「ヘア、読めるの?」

「部分的にですが、読めます。ここは『兵と  家 大事  』と書いてあります。自信はありませんが」

「すげえ」

「ありがとう!ヘア!」

ポーは笑顔を向けてベアトリスに感謝する。

「兵と家大事。断片的でも解読できた。わからない部分は推測して埋めていく。ヘア、力を貸してくれ」

ベアトリスはコクンと頷く。

テーブルに温め直したシチューが盛られた深皿が人数分、並んで置かれた。

「まずは腹ごしらえが先でしょ」

「おー!」

真っ先にクーリーが席に着くとスプーンを握り締めた。

「そうだね。じゃ!食べよう!」

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