同盟暦512年・旅立ち、ロブホーク編1
五日後、ポーはテュルパンに旅立ちを告げ、預かっていた魔法造りの剣"焔の拵え"を返した。
テュルパンはポーを労い、彼の旅立ちを許し、安全と神の加護を祈った。
「ガーラーン卿には私が話しをしましょう。貴方の処遇は決まっていませんが、その旅立ちを利用させてもらいましょう」
「利用?」
「表向きの理由として、辺境への追放処分を下したことにするのです。そうすれば、逃亡罪に問われないでしょう」
「…………あ」
「根回しと慎重さは必要ですよ。肝に銘じなさい」
ポーは自らの見通しの甘さに恥じ入った。
「後のことは私に任せなさい」
「テュルパン様。感謝します」
「いいえ。……むしろ貴方の方に重責を背負わせますから」
「は?」
「なんでもありません。さ、もう行きなさい」
ポーは騎士団寮の部屋に戻ると前日に用意していた旅の荷物を背負う。
そして部屋を出ると、そこにレオリックスとクーリーが立っていた。
「よう」
「ん」
ポーは驚きの顔で二人を見た。
「なんで?……ん?」
ポーは二人の服装に違和感を覚え、察した。
「ついてくる気か?」
旅姿のレオリックスとクーリーを見てポーはさらに驚いた。
「護衛するって言ったろ?」
「一緒」
レオリックスは腰に剣を下げ背中に盾を背負う。
クーリーは少年のような服装に部族の模様が施された狼の毛皮を纏い、腰に二振りの短剣。
「……ごめん」
「違う」
「え?」
「こういうときは「ごめん」じゃないだろ?「ありがとう」だ」
レオリックスとクーリーが拳を突き出す。
「……あぁ!ありがとう!」
ポーは二人の拳に自分の拳をぶつけた。
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三人はその日のうちに城門を出た。
しばらくは北の都エベネーザに戻れない。
ポーはベアトリスの事を思い、そして頭を振った。
自分にできることはないと言い聞かせた。
「んでどっちから訪ねる?」
「母様!」
「お前には聞いてない」
「ロブホークに向かおう。シデ・ペネンヘリがどんな人物なのか興味があるんだ」
街道を歩く三人は、街道の分かれ道に見覚えのある偉丈夫の姿を捉えた。
加えて一台の馬車もいた。
「遅いわ」
「ガーラーン騎士総長!」
「あと五分遅れたら殴っとったぞ」
「どうして?」
「ふむ……儂は未だ心底、承服しかねるが…お願いされては断れんわ」
くいっと馬車を指差す。
長期間の旅用に製造された馬車だ。幾つもの呪いがかけられており、とても頑丈で立派な馬車だ。
ポーは馬車の中を覗き込む。
そこにはベアトリスとアーネストがいた。
二人とも旅装束姿だ。
「……ーーこれはどういうことですか!」
頭に血が上ったポーはレイモンドに掴みかかる。
「イスマイル卿の言伝がある。
『姫様は離宮にて療養とする。表向きは。宮廷は嵐に見舞われるため、身の安全と心の安寧のためにも宮廷から離れて頂く。姫様の魂は引き裂かれた。医師や薬師でどうなるものではない。魂を癒す方法を考えた。荒療治になるが、お前達の旅に同行させることにした。危険な賭けだが、いずれ姫様は表舞台に立つ。時間も国を取り巻く情勢も待ってはくれん。姫様を支え導け。これを任務とせよ。達成すればお前の罪も相殺できるだろう』
以上だ」
「だからって…」
「儂は納得しておらん。だが、周りはすでに動き出している。まるで家の仲間を這い回る鼠のようにな。いいか、儂らが守れる時間は限られておる」
レイモンドはポーの首を手で掴む。
首の骨太を折りそうなほど力が込められた。
クーリーが短剣を抜くと、レオリックスは慌てて彼女を羽交い締めにした。
「もし何かあれば儂はお前を殺す」
「……当然です」
「命に代えても姫様を守れ。奴曰く『困難を乗り越える事が最良の治癒』だとぬかしておったが」
「守ります!今度こそ!必ず!」
「……信じるぞ。期待を裏切るな」
レイモンドはポーの肩を叩き、クーリーの頭を撫でると馬車の中のベアトリスに一礼し、馬に跨がり去った。
「こりゃ……とんでもなく大変な旅になるな……」
レオリックスは呟いた。




