同盟暦512年・白雪国11
「だからってどうするつもりだ?アテはあるのか?」
「……ない。けど、ここにいてはいけない。そんな胸騒ぎがするんだ」
「胸騒ぎね」
レオリックスは麦酒を注文する。
「俺にアテがあるぞ」
手に取った兎肉の串焼きを横からクーに食われてしまい、眉をつり上げた。
「ロブホークを知ってるか?」
「北東の谷間にある冰剣砦の管轄下の町だ。小さい町ってことぐらいしか知らないよ」
「あそこにシデ・ペネンヘリが住んでる」
「シデ・ペネンヘリって…賢者にして稀代の詐欺師っていわれた…」
「ムカつく婆さんだが頭は確かだ。賢者と言われるぐらいの知識を持ってる」
シデ・ペネンヘリとは三十年前に名を轟かせた知恵者。
とある小国の王に乞われて王に仕え、敵対する大国を攻め滅ぼすのに大いに貢献した。
シデ・ペネンヘリは王に功績に見合う莫大な報奨金を求めた。
王は渋り、求められた半分の金銀を渡した。
これにシデ・ペネンヘリは自尊心を傷つけられ、仕返しに出た。
その手腕で小国の経済を乗っ取り破壊し、ついには小国を自滅に追い込んだとされる。
「紹介して欲しい」
「いいのか?」
「求めるものを与えてくれるなら」
「わかった」
クーリーがポーの袖を引いた。
「ポー。クーリーの実家行く」
「実家って、"牙の牛"部族の里のこと?」
「うん」
「おいおい、あんな崖の村に行ってどうするんだよ?」
麦酒を飲むレオリックス。
「集落」
「集落?」
「母様強い。とんでもなく強い」
ぶほっとレオリックスが麦酒を吹き出した。
「カーリー・クーかよ⁉」
「クーリーの母親?部族の長だよね?」
「母様。鍛えてもらう。終わる。最強!」
「いやいやいや…死ぬって。あんなバケモン相手にしたら」
「強いのか?」
ポーは会ったことがない。
「強いなんてもんじゃない。ありゃ女の形をした巨人だ。四年前、騎士団と問題を起こして戦いになったろ?その時、"冬の獅子団"のガレス隊が全滅寸前にされたんだ」
"冬の獅子団"は騎士団でも最も勇猛な部隊だ。
剛力を自慢とする者が多く、勇敢な強者が揃っている。
「ガレス隊?。レオ、確かガレス隊にいたことが」
「ある。その時も所属してた。徹底的に痛めつけられたよ。幸い、死人は出なかった。でも、おかけで八割の騎士が恐怖で引退に追い込まれた。嫌な記憶だ」
「母様無双」
ポーはパンをちぎってバターを塗りサラミをのせて囓る。
「……行くよ」
「ブイ」
「本気か?」
赤葡萄酒を一気に飲んでポーは赤らんだ顔。
「僕は強くなるためならなんだってやる」




