同盟暦512年・脱出行3
ポー達はスラム街の安宿に戻る。
テュルパン達は旅支度を終えていた。
「ポー。馬車はどうでした?」
「裏手につけてあります」
テュルパンは総勢三十三名の仲間を集めた。
「では行動を開始します。まずは西門に向かい門番を無力化して王都を出ます。北を目指し、昼夜問わず走り続けて"惑い魔女の森"へと踏み入ります。以上です」
「惑い魔女の森ですか……」
一人の騎士が眉をひそめた。
人が踏み込む事を許さないといわれる不気味な魔力が霧のように張り巡らされた魔女の領域だ。
本来は避けて通らねばならない危険地帯。
「これしか方法はありません。我らの手勢は少数。追っ手を姫様を守り切れません。ならば危険を承知で飛び込むしかありません。何より二度とヘリオガバルスに姫様を渡す事はできません」
「……だな。いざというときは姫様とアーネストだけでも逃がしてみせるさ。お前ら、覚悟決めろ」
リッヒンデルの言葉に全員が力強く頷いた。
「では各々、行動を開始して下さい」
ーーーーーーーーーーーー
ポーは先んじて五人の仲間と共に西門に辿り着いた。
この時刻、西門が最も警備が緩む。
門の制御室を制圧する必要があった。
ポーとレオリックス・ホルト(23歳・青年)は目配せすると、制御室前にいた三人の警備兵に襲いかかる。
声を出させる間もなく頸動脈を切って殺すと、死体を物陰に隠す。
「上は?」
「クーリーがやるとさ」
二人が上を見ればクーリー・クー(15歳・少女)が器用に壁をよじ登っていた。
彼女は北の山岳地帯の"牙の牛"部族の戦士だ。
城壁の上に辿り着くなり、一気に見張り番の警備兵数人を斬り伏せた。
クーリーは人の気配がないことを確認すると、ポー達に向けて両腕で○を作ってみせた。
「さすがだ。クーリー」
「おい、テュルパン様達だ」
レオリックスの指差す方に騎馬隊と一台の馬車が音を立てないようにゆっくりと近付いてくる。
「あの家の辺りまで来たら門を開く。テュルパン様達も一斉に走り出す手筈だ。タイミングをしくじるなよ」
ポーは操作盤を握る。
レオリックスからの合図を待つ。
「今だ!」
レオリックスの合図と共にポーは操作盤を引いて開門させた。
騎馬隊と馬車が一斉に駆け出した。
「クーリー!早く!」
「…………ん」
城壁の上から飛び降りたクーリーをポーがキャッチする。
「三人とも!乗れ!」
三人は疾走している馬に飛びついて騎乗した。
「ひたすら走れ!」
リッヒンデルの檄を受け、馬車と騎馬隊は王都ランゴバルドを脱出したのだった。