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アラン戦記  作者: 夢物語草子


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同盟暦512年・白雪国10

ポーは城外を走り続ける騎士達を眺めていた。

日は落ち、もう夜の帳が降りていた。

「もう……だめだー……」

騎士の一人がまた倒れた。

これで三十八人目。

衛生兵が駆けつけ担架に乗せて運んでいく。

トップを走っているのはクーリーだ。

疲れた様子もなく淡々と先頭を駆けている。

「あいつ…想像以上の体力ばかだ……」

「ルッテンドラフの奴が言ってたぜ。あいつの母親が父親を腹上死させかけたことがあるってな…。あいつと寝床を共にしたらどうなるか……うぅ……考えただけで恐ろしい」

「いや、俺は死んだって聞いたぞ?母親は旦那が死んだのにそれでもやめなかったって…」

「そりゃもうホラーだろ……」

「さすがにそれは作り話だろ?」

噂話をしていた騎士達にクーリーが顔を向けた。

「本当」

「「「は?」」」

「父様死んでも母様抱いてた。弟それで孕んだ」

「「「………………」」」

無言になる騎士達。

生きてる間も、死んでからも最期の一滴まで搾り取られたのだろう。

想像して、騎士達は恐れおののいた。

「知らないのか?"牙の牛"部族の女達は…超強い」

レオリックスは汗だくになりながら教えた。

ーーーーーーーーーーー

城下町、その下町にある酒場"火酒の作り手"の奥まったテーブルにポーとレオリックス、クーリーはいた。

レオリックスはテーブルに突っ伏したまま身動き一つしない。

「うまいうまい」

クーリーは全く疲れを見せず、運ばれた肉、魚にかぶりつく。

「北の飯は好き。中原の飯まずい」

「味が薄いし量は少なかったしね」

「ケチなんだろ……飯は盛大にたくさん食べた方がいいに決まってる」

「北の民は狼の顎の末裔。食って食って食いまくる」

ポーはカップに赤葡萄酒を注いでレオリックスに渡す。

「雪は溶けて涙になった。北の大地は息子を返せと叫ぶだろう。彼の子供達は誓いを立てる。必ず父の亡骸を取り戻す」

レオリックスは応酬詩(ロカセナ)を紡ぐとカップを飲み干す。

北の民は感情を詩にして語り合う伝統の癖が受け継がれている。

元々は争い前の余興として行われた言葉の応酬が始まりと言われている。

「……なぁ、上はどう考えてる?」

「わからない」

「俺達は騎士だぜ?主が殺されたら復讐するべきだ。違うか?」

「戦争になる。北と中原の戦争だ。きっと、同盟の円卓を割ることになる」

「民を戦火に巻き込んだら……王は俺達を許さないだろうなぁ…」

レオリックスの言葉はどこか不思議な意味が含まれているようだった。

「…………レオ。クー」

「僕は、国を離れるつもりだ」

「はあ?」

「ん?」

二人はキョトンとした。

「僕は復讐する」

「でも力も知恵も、何もかも足りない」

「僕はそれが欲しい」

ポーはずっと考えていたことを二人に話し始めた。

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