同盟暦512年・白雪国9
レオリックスが先手を取りルグランに殴りかかる。
ルグランは易々と躱し、レオリックスの右腕を絡め取る。
ルグランの膝蹴りがレオリックスの腹に命中する。
「ぐぅ…」
ルグランは引き倒したレオリックスを踏み付けて、ポーを睨みつけた。
「覚悟しろ」
「ざけんな」
レオリックスが足を払いルグランを転ばせた。
「この…!」
「何をしているッ!!」
兵舎に雷鳴のような怒号が轟いた。
騎士団長メッツェンガー・シュタイン(41歳・男)が怒りの形相で立っていた。
「ここは騎士が集う所だ!いつからチンピラ共がたむろするようになった!答えろ!」
乱闘に興じた騎士達は一斉に手を止め、直立不動となった。
「卿らに騎士の矜持を思い出させてやる。城外を走ってこい。私が満足するまでな!行け!!」
急ぎ足で騎士達が兵舎を飛び出していく。
「フェニックス卿は残れ。話がある」
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騎士団長の執務室に移動したメッツェンガーとポー。
椅子に腰を下ろしたメッツェンガーは不機嫌だった。
「やってくれたな」
「よりによって王を手に掛けるとは。卿は立場上、貴族派だ。おかげで天秤が不利に傾いた」
「平民派と貴族派の争いには興味がありません」
「では中立派か?。言ったろう?立場上、お前は貴族派だ。どう主張しようとそこは変わらん」
「シュタイン騎士団長。今日は任務の報告に来ました」
「そこは気を配ったな。報告義務を総長のみで済まさなかったところは評価する。報告しろ」
ポーは隠すべきところは隠して報告した。
メッツェンガーはその点を指摘することはなく、聞き終えると煙草を咥えた。
「戦争だな」
「……戦争」
「これほどの屈辱。公表すれば貴族どころか民も復讐を叫ぶ。北の民の怒りの熱は抑えようがない」
そこでメッツェンガーはしばし黙る。
「さて、総長と他の騎士団長と話し合うとするか。フェニックス卿、ご苦労だった」
ポーは一礼し部屋を出た。
「…………さて……身の処し方を考えるか」
メッツェンガーは盛大に煙を吐いた。




