同盟暦512年・白雪国8
評議会は解散となり、ポーは憂鬱な気持ちで騎士団の兵舎に向かった。
普段は厳しい訓練が行われている練兵場も、今日は静か。
「ポー!」
前からレオリックスとクーリーが走ってくる。
「二人とも、どうして城に?休息したら護衛に回るって」
「あぁ。だから護衛に来たんだよ」
「クー。ポー守る」
「僕を?」
レオリックスが顔をしかめた。
「お前を殺すって息巻く奴らがいるんだよ」
「…………そうか…そうだよね……騎士団にとって僕は、主君殺しだ」
「兵舎に行くなって言いたいが、行くんだろ?だから俺とクーで護衛するのさ」
「ルグランわめいてる。うるさい」
白雪国一の名門出身にして騎士団の若手随一の騎士ルグラン・キッド(23歳・男)はベアトリスの婚約者候補の一人だ。
「姫様にベタ惚れだからな。あの色男」
「ポー。気を付ける。あいついま危険」
「ありがと。でも、ガーラーン騎士総長にお会いしたんだ。騎士団長に会わないわけにはいかない」
「ならとっとと済ませよう。んで、美味い飯でも食おうぜ」
「レオのおごり。一ヶ月分食い溜めする」
「やめろ。俺を破産させる気か」
軽口をたたき合いながら三人は騎士団の兵舎に移動した。
扉を開いて兵舎に足を踏み入れた三人を、待機する騎士達が一斉に見た。
騎士団は二つの派閥があり、主に平民派と貴族派だ。
ポーは貴族派。
レオリックスとクーリーは平民派。
「フェニックス!」
ルグランはポーを見るなり叫んだ。
「この野郎!」
「おい!やめろ!」
「引っ込んでいろ!平民風情が!」
「なに?」
「聞こえなかったか?引っ込めと言ったんだ!平民に護衛など務まる訳がなかったんだ!王も姫様も守れずのこのこと帰国した恥知らずが!」
「なんだと?」
「そもそも平民が騎士になる事自体、間違っている!いざという時使えない!まるで錆びついた剣だ!我ら貴族こそ何代にも渡って磨かれ鍛えた真の剣だ!」
「そうだ!その通りだ!」
「錆びた剣など叩き折り、地面に捨てて唾を吐いてやる!」
声高に叫ぶルグランにレオリックスが唐突に唾を吐きかけた。
「悪いな。礼儀知らずな平民なんで。これは俺達の喧嘩の売り方だ」
「貴様…!」
レオリックスにつかみかかろうとしたルグランの顔に、クーリーが唾を吐いた。
「……食い過ぎた」
「きさまらあー!」
レオリックスとルグランが掴み合う。
やり取りを見ていた騎士達も立ち上がって諍いに加わる。
騎士は平民派と貴族派ごっちゃになっての喧嘩沙汰。
クーリーは身軽に頭上を飛び回り頭を蹴り回っていく
剣を抜かないのは最低限の感情の抑えだろう。
最初は止めようとしたポーも横っ面を殴られ、殴り返して乱闘に加わる。
「どうしてこうなる!」
「いいだろ?貴族野郎をぶん殴るなんてそうそうあるもんじゃない!思いっきりやろうぜ!」
「最高」
飛び跳ねていたクーリーの足を掴んだルグランは壁めがけて投げた。
「平民どもが…図に乗るな」
ルグランは口元の血を拭った。




