同盟暦512年・白雪国6
「筆頭家老様もご承知の通り、年に一度開かれる十二同盟諸国の大会議のためダミートリアス王は使節団と共に盟主国、鉄王冠国王都ランゴバルドに赴きました。
近年、蛮族の侵攻や魔物の氾濫が相次ぎ大きな問題となり早急な対策を講じるためです」
「そうだ。伝統的に外敵に関する問題は諸国がそれぞれ単独で対処してきたが、その規模が拡大したため、同盟全体で協力体制を築くべきだとなった」
「ですが、諸国の王がランゴバルドに集結しても大会議が開かれる様子はなく、諸国の使節団はただ時間を無為に過ごす事を強いられました。
そしてあの日、突然、諸王達は"黄金劇場"に招待されました。招待というより、勅命でした。
入場したのは各国の王とその家族。そして側近達です。僕たちは劇場の周囲の警備に回され…そして日が落ち始めた頃、白雪国の使節団が、鉄王冠国の親衛隊に拘束されました。僕たちも例外なく武器を奪われ、牢屋に閉じ込められました。
何が起きたのか…誰も分かる者はいませんでした。そのうち、僕を含めた新人の騎士達が牢屋から出され、アルトアイゼン城に連行されました。
そこには手枷をはめられ罪人の扱いを受けたダミートリアス王と、……姫様がいました。
テラスにはヘリオガバルスがいて、見下ろしてました。
そして奴は剣を投げて言ったんです」
ポーは歯軋りした。
「『王を殺せ』、と」
誰もが沈黙した。
「お前に命じたのか?」
「いいえ。ヘリオガバルスは姫様に命令したんです。娘に、父親の首を斬れと」
レイモンドが壁に拳を叩き付け亀裂を走らせた。
「おんどれがあぁぁ………!」
「(……ふむ……"姫様に"…。……西と北西に楔を打ったと…………呪術師の勢力は足を速めるだろう………)」
イスマイルは冷静にポーの報告を分析する。
「けど、姫様は剣を握るのはもちろん、立つことも出来なかった…。ヘリオガバルスはさらに容赦なく、『盟主の反逆罪を問うに王族の不始末で済ますか、国と民に罪を償わせるか好きにするがよい』。
奴は……国を、白雪国を滅ぼすと脅しました」
「(最北部の民は独立独歩の意思と気風を生まれ持った民。……こちらを動かすつもりか……?)」
「姫様は……民の事を思われて剣を取ろうとして、僕が剣を奪いました。僕が……王を斬りました……!」
ポーは片膝をついて、魔法造りの剣"焔の拵え"を差し出した。
「テュルパン大司祭!これはどういうことか!」
「はて?なんのことでしょうか?」
「王を手に掛けた者に王室の宝具を預けるなど正気の沙汰ではないぞ!」
「ポーは信頼できる騎士です。だから預けたのです。それを責められるいわれはありませんよ」
テュルパンは毅然と反論して噛みついた文官を黙らせた。
「ポー・アラン・フェニックス」
イスマイルは問うた。
「お前はこれからどうする?」
「殺します」
ポーは瞳に昏い炎を宿していた。
「僕は、必ずヘリオガバルスを殺す!」




