同盟暦512年・白雪国3
アーネストの言葉の意味を察してポーは俯いた。
ポーは主君を手に掛けた、王を殺した。
どの国も王殺しは大罪である。
おそらく事実が報告されれば、ポーは極刑に処される。
アーネストは怖くて今まで聞けなかった。
「…………ちゃんと償わないと……僕はヘアを見られないよ…」
「…………。出よ。お湯、冷めてきちゃった」
湯船を出たアーネストとポーは顔を背けたまま、身体を拭いて服を着ると客間に戻る。
水差しからコップを二つ、水を注いで一つをアーネストに渡すポー。
アーネストは一口飲んで息を吐く。
緊張の糸が解けたこともあるのか、風呂に入りリラックスしたせいか、目元が睡魔に誘われているのかトロンとしている。
「アーネスト、ソファーで眠りなよ。僕が番をするから」
「そんなこと……できない……」
「ほらいいから」
ポーはアーネストに毛布をかけると、それが効いたのかアーネストは眠った。
椅子に腰掛けてポーはコップの中で揺れる水に目を落とす。
「(王殺しは重罪中の重罪。どんな理由があっても到底許されるわけない。でも、今はまだ死ねない。死ねるもんかっ)」
ポーは決心していた。
仇を討つ。
ダミートリアス王を死に追いやり、ベアトリスを弄んだ憎むべき相手、ヘリオガバルス。
「(あいつだけは…!)」
拳を強く握り締めた時、扉が控えめにノックされた。
ポーは腰の剣に手を添えて扉の前に立つ。
「誰だ?」
「イレーネです」
「イレーネ…?たしか…引退した前の女官長の名前…」
「はい。前女官長を務めたイレーネです。筆頭家老イスマイル様より極秘の命令を受けここに来ました。そちらにアーネストはおりますか?」
「…何故です?」
「本人であることを証明するためです。アーネストは私の顔を見知っております。ご確認を」
「そこで待って下さい」
剣の柄から手を離さず、ポーはアーネストを起こす。
寝ぼけ眼のアーネストに説明する。
アーネストは自分の頬を手で叩いて、意識を切り替えると、すぐに扉に駆け寄り僅かに開いて相手を確認した。
「イレーネ女官長!」
「お久しぶりですね。"じゃじゃ馬"アーネスト」
「は、はい!…いえ…その…あだ名で呼ぶのはやめてください…」
イレーネ(七十歳・女性)は室内に足を踏み入れると、両手に抱えた荷物を机に置く。
「姫様はどうしていますか?」
「就寝中です」
「ではお目覚めになられてから支度を致しましょう。騎士ポー・アラン・フェニックス卿、貴方に伝言を預かっております」
「何でしょう?」
「テュルパン様と共に評議会に出頭するように、とイスマイル様のご命令です」
ポーは覚悟を固めた表情で頷いた。




