同盟暦512年・白雪国2
湯船に背中合わせにつかるポーとアーネスト。
冷めていた湯に従業員が届けた熱湯を足した。
入浴用の薄着に着替えた二人は慣れた様子で、しかし向かい合うようなことはせず背中合わせに入った。
「…………ほぁ~……」
アーネストは気の抜けた声をもらした。
「なんで僕まで入るんだよ」
「いいでしょ。順番に入る時間なんてないし、お湯も冷めちゃうし。それに今更恥ずかしくないでしょ。一緒に入るの」
「(いや恥ずかしいって…)」
ポーは内心思う。
「…………それにね…………こうでもしないと言えなくて」
「?」
「ーーーごめんなさい」
膝を抱えて俯いてアーネストは呟いた。
「本当に辛かったのは…ポーなのに……あたし……ポーを責めるばっかりで……何もできなかったのはあたしも同じなのに……」
触れた背中からアーネストが震えていることをポーは知った。
「……姫様……ヘアが辛い目にあったんだ…幼馴染みで親友のアーネストが怒るのは当たり前だよ」
ポーとベアトリス、アーネストは幼少期からの幼馴染みだった。
ヘアはポーとアーネストが呼んだベアトリスの愛称。
美しい長髪を羨ましがったアーネストがつけたのだ。
勝ち気なアーネスト。
お淑やかなベアトリス。
のんびり屋のポー。
三人はいつも一緒に遊んでいた。
「だから謝らないで」
「うん……」
そうしてしばし二人は無言だった。
お互いの体温を感じ合う。
「……あのポーが騎士かぁ……てっきり学士になるかと思ってたのに」
「不死鳥一族の悪縁だよ。きっと。でも僕はアーネストがヘアの侍女になったことが驚きだよ。あんなに騎士になるって言ってたのに」
「ーーーあたしだって騎士になると信じてたわよ。そのはずだったのに、いつの間にかポーの婚約者になってて…。ね?未来の旦那様?」
「…………ごめん」
「謝らないでよ。あたしの父上が原因なんだから」
ポーは不死鳥の血族だ。
その血筋は古き人々でも神性が色濃く残る。
三度、死しても炎に焼かれ灰となって復活する人間、それが不死鳥の血族であり、ポーはフェニックスの家名を継ぐ後裔であった。
「父上は傭兵から成り上がったからいつも貴族から後ろ指をさされてた。陰口もたくさん。あたしを伝統ある家柄の人と婚姻させて縁戚になる。それが父上の野望だったわ。……ポーがひとりぼっちになった時、すぐに援助を申し出たのもそれが理由」
ポーに家族はいない。
「叔父さんがいるよ…それにブレイクさんとメトロノームさんも」
「前者は失恋して行方不明だけどね」
アーネストはぐっとポーに寄りかかった。
「ねぇ…ポー。大丈夫だよね?」
アーネストは胸の不安を言葉にした。
「ポーは…罪を問われたりしないよね…」




