同盟暦512年・白雪国1
白雪国首都エベネーザ(モデルはフィンランド首都ヘルシンキ)に到着したポー一行。
「? あ!ポー!ポーじゃないか!それにクーリー!レオ!」
友人の番兵テルは驚いて叫んだ。
「テル」
「な、なにがあったんだ!こんなに、その汚れて…。それに今、城は大騒ぎだ。理由はわからないんだが」
「城に遣いを出して下さい。テュルパン以下、此度の使節団が帰還したと」
「テュ、テュルパン様!?は、はい!すぐに!」
「テュルパン様、姫様を城に連れて行くのは少し待って下さい」
馬車から顔を出したアーネスト。
「一度、身支度を整えられてからでも遅くありません。どうかお願いします」
「……そうですね。短い時間ですが休息を取りましょう。となると」
「少し歩きますが、冬離館があります」
「ではそこに向かいます。皆も身体を休めるように」
テルに伝言を残してポー達は移動する。
貴族が多く住む第三区に目的の宿がある。
エベネーザの王室御用達の高級宿"冬離館"。
受け付けを済ませ、裏口から最上階の専用部屋に通されたポーとベアトリス、アーネスト。
他の仲間は出入り口を見張る者と休息をとる者で分かれ、交互に過ごすことになった。
部屋の湯船は温かい湯が張られて、アーネストはそこに薬湯を加える。
心が落ち着くように花、葉、花精油も入れる。
「さ、姫様」
入浴用の薄着に着替えたベアトリスは湯船につかる。
「………いたい…………」
「少しだけ我慢して下さい」
アーネストがベアトリスの身体を優しく拭い、そこに痛みに効く香油を塗り、湯で流す。
十五分ほどで湯浴みを終えたベアトリスは寝室に入り、ふわふわのベッドに横になるとアーネストの手を取った。
「……ポーを呼んで下さい…」
「でも……いえ、わかりました」
部屋の外に待機していたポーを呼び入れるアーネスト。
ポーは寝室に入る。
「姫様、お呼びですか?」
「…………手を……握ってもらえますか…………?」
ぶるぶると震える手を伸ばすベアトリス。
ポーは両手で包み込むように優しく握った。
「……アーネストにも……湯浴みをするように……伝えてください……残り湯でもうしわけないけれど……」
「はい」
ベアトリス静かに寝息をたてる。
しばし手を握ったポーはゆっくりと手をベッドに置くと、音を立てないように寝室を出た。
「…姫様は?」
「眠ってる。やっと戻ってこれたから張り詰めてた気持ちもほどけたみたいだ」
ふぅとアーネストはソファに腰を下ろした。
アーネストも疲労がどっと押し寄せたのだ。
「アーネストも風呂に入れ。時間がある」
「あれは姫様専用よ。入れるわけないでしょ」
「姫様が言ったんだ。アーネストに苦労をかけたから入って欲しい。残り湯で申し訳ないってな」
「……姫様……」
「だから入ってきなよ」
「ーーー分かったわ」
「あぁ」
「さ、入るわよ」
「あぁ……。………ん………?」
ポーは有無を言わさずアーネストに掴まれ引っ張られた。




