同盟暦512年・脱出行2
「アーネスト。姫様のご様子は?」
「茫然自失としておられます」
「ではお一人で馬に乗るのは難しいでしょう。やはり馬車を用意するしかありませんね」
「それなら俺が用意します」
ポーは鼻血を拭った。
「ダミートリアス様が献上用の馬車を作るよう職人街の店に注文していました。すぐに取りに行きます」
「任せます。リッヒンデル、三人ほどつれて共に行きなさい」
「おう」
ポーとリッヒンデルは急いで宿を出た。
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八区画に区分された王都ランゴバルドの三番区画が職人街だ。
スラム街から人目を避けて裏路地を通り職人街へ入り、目的の店に到着する。
「親方!親方はいるか!」
がっしりと恰幅の良い身体のカンバー(64歳・老年男)が奥から出てくる。
「おう。なんだ…ん?お前さんは…」
「前にダミートリアス様のお供で来た。白雪国の騎士ポー・アラン・フェニックスだ」
「おうおう。覚えてるよ」
「ダミートリアス様…が注文された馬車は出来ているか?」
「ん?まぁ…完成してるが、それがどうした?」
「今すぐ渡して欲しい」
カンバーは困惑した。
「あれは直接、王宮まで運んでくれって話しだったろう?なのにいきなり渡せってなぁ。細かい部分はまだ出来ちゃいないしよ」
「動けばいい!姫様を…白雪国にお連れするために引き渡してくれ」
強い剣幕で迫るポーにカンバーは驚く。
「……わかった。こっちだ」
裏手の作業小屋に移動する。
三頭立ての馬車が置かれていた。
豪奢な見た目は王侯貴族が乗る出来栄えだ。
「親方、余分なものは外して目立たないようにしてくれ。あと、できるだけ軽くして欲しい。大至急だ」
「そりゃいいが、いつまでだ?」
「一時間」
「一時間⁉そりゃ無茶だ!」
「できる限りでいい!頼む!」
頭を下げて頼み込むポーにカンバーは折れた。
「だーもー分かった!やれる限りやってやる!。おい!弟子共を全員起こせ!仕事だ!」
カンバーは作業に取りかかった。
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店の外を警戒しているリッヒンデルと三人の騎士に事情を説明したポー。
「よし、足は手に入れたわけだな」
「周りの様子は?」
「何も。静かなもんさ。ただし、警備兵以外に変な連中がうろついてやがる」
扉の隙間から外を覗けば、奇天烈な格好をした男が何人か確認する。
「…………なんです?あれ?」
「さてな」
「あれは…「薔薇騎士物語」の登場人物の格好ですよ。たしか美貌の騎士トリストだったと」
「なんだそれは?どうりで変な格好な訳だ」
「俺達を探してるんでしょう。宿舎から逃げて身を隠したから」
「となると時間が無い。ポー、作業は三十分で切り上げさせろ。皆と合流する」
「はい」
そうして三十分後、ポー達は布で隠した馬車を引いて見つからないように宿に戻った。