同盟暦512年・暗躍公8
「クズめ」
ゴルゴーは大皿の林檎を掴んで囓る。
「やれやれ。どうして正直に話すと皆、示し合わせたように私を非難するのだろうね」
「貴様と話すと脳細胞が無駄に腐る。とっとと本題に入れ。私に何を要求する?」
「マサを封鎖して欲しい」
「封鎖?出入りを禁止しろということか?」
「期限は…二~三日で結構。理由は何でもいい。ある使者と面会して数日、都市の出入りを封鎖してくれ」
「使者だと?」
胡散臭い目でゴルゴーはハーレクインを見る。
「私を謀っているな」
「さてどうかな?」
「正直に言え。でなければ、剣で斬られるか槍で刺されるかのどちらかだ」
「ご明察。恐れ入るよ」
すぐに降参したハーレクイン。
「使者の話は嘘か」
「嘘ではないよ。使者は来ている」
「何?」
「使者はオスマール大司祭」
「!」
ゴルゴーは目を見開いた。
「面会するチャンスを提供するつもりだ。今までどれだけ手を尽くしても教会に相手にされなかったんだろう?」
「…………お前……教会と繋がっているのか?」
「それは秘密だよ。君の交渉次第で、パルタ家長年の悲願だった"破門"が解かれるかもしれないよ?」
「証明できるか?オスマール大司祭が訪れる証拠を」
ハーレクインは金糸の施された布を取り出した。
「ーーーこれは…」
ゴルゴーは背後に立つ側近の騎士に見せた。
「どうだ?」
「…………間違いありません。本物です」
不機嫌に頬杖をついて考え込むゴルゴー。
「(くそ)」
ハーレクインの腹の底が読めないことにゴルゴーは苛立ちを募らせる。
「(オスマール大司祭は教会でも大きな影響力を持つ有力者。次期教皇の呼び声も高い人物。……大きい……拒否するには大きすぎる獲物だ……。我が家門が復興する最大の力となる)」
「(だが……理解できない。上級指名手配犯、いや特級指名手配犯とも言われた暗躍公の口添えでオスマール大司祭がここまで出向くものか?。普通であれば一笑に付す。考える余地もない。だが…この金糸…間違いなく大司祭のみが着衣を許された法衣に使われるもの。教皇庁で厳重に保管されているはず。なのに…)」
考えあぐねたゴルゴーは思考を止めた。
深入りすることに危険を感じ取ったのだ。
「(北の地は火種か。……利用されたなら利用してやろう)」
「いいだろう」
ゴルゴーは林檎の種を投げ捨てた。
「封鎖の間、私は何もしない。好きに動け」
「感謝するよ」
「牙を向ければ皆殺しだ」
「承知した」
ハーレクインとゴルゴーの極秘の会談は終了した。
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ゴルゴーの命令でマサが封鎖された三日の間に、ポー達一行はマサを通り抜け、白雪国の北の都エベネーザの領内に入ることに成功した。




