同盟暦512年・暗躍公7
大都市マサの城門前まで歩いてきたハーレクインは、鉄王冠国の兵士に槍を突きつけられた。
「貴様…何者だ!」
「私の名前を教えるに君にその価値があるかい?私の名前は高くつくよ」
「なんだと?」
「司令官殿はいるかね。皇帝陛下の勅書を携えてきたと伝えて欲しいんだが」
ハーレクインは蝋で封印された手紙を見せた。
「皇帝陛下の勅印……」
「し、失礼しました!すぐにお伝え致します!」
「暖かい部屋でお茶を馳走してもらおうか。勅使は丁寧に扱うものだろう?」
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兵士に案内した豪華な部屋でハーレクインは湯気立つカップに口を付ける。
「う~ん…アップルペコか。高貴な香りがたまらないね」
部屋の隅に控えるメイドは沈黙する。
「客人を会話で楽しませるのもメイドの仕事だろう?」
「いえ…その」
「それとも特別な歓迎を用意していると?その為の小道具なんだろうね。袖の中に隠したナイフは?」
「⁉」
「驚きと恐れと怒りが滲んでいる。舌に感じるぞ。いい味だ」
メイドは薄気味悪さに顔色を悪くする。
「けれどひと味足りないね。何かな…あぁ分かった。恨みだね。私に対する憎しみだ。ふむ。出し惜しみはよくないな」
からかうハーレクインにメイドは両目をつり上げて怒りを露わにした。
「一からもてなしの作法を学ぶといい」
「お前っ!」
メイドはナイフを握り締めてハーレクインに刺そうとした。
ハーレクインは立ち上がり、ヒラヒラと避けてカップの紅茶を飲み干す。
そしてメイドの腕を掴み捻り上げた。
メイドは痛みでナイフを落とす。
「さて、君の味はいかほどかな?」
ハーレクインはメイドに深い口吻をした。
口の中にため込んだ紅茶を口移しの要領でメイドに無理に飲ませる。
「…げほ…げほ…」
ハーレクインが手を離すとメイドは床に尻餅をつき、唾液を吐いた。
涙目でキッと睨みつけるメイド。
「(さて…どうやってもっとからかってやろうかな?)」
バタンと扉が開き、ゴルゴーが軍靴を鳴らして入室した。
「待たせたな。悪辣公」
「人には暗躍公と呼ばれているんだけどね」
「ならば呼び名が一つ増えたな。…おい、部屋を出て行け」
ゴルゴーはメイドを部屋から追い出すと、ソファーに腰を下ろした。
「あのメイドはキュロス生まれの娘だ」
「あぁ!道理で!私を恨むはずだ!」
「七年前に貴様が全滅に追い込んだ街だ。噂では、気まぐれにやったと聞いているが」
「私はそこまで理不尽ではないよ。ちゃんと理由はあるさ」
「その理由とは?」
「あの街は小麦菓子が特産品でね。私も大好きだった。七年前、期待に胸を膨らませて立ち寄ったら味が落ちてた。とてもショックでね…気づいたら、色々とやらかしてしまっていて、街は死体の山になっていた。ちゃんとした理由だろう?」




