同盟暦512年・暗躍公6
天幕を出たポー。
テュルパンに人払いされたのだ。
「ポー!」
クーリーとレオリックスが駆け寄る。
「話し合いはどうだった?」
「……後はテュルパン様とあいつで話すってさ」
「俺は嫌だぜ。あんな人に不幸しかもたらさないような奴と協力するなんて」
「嫌悪。腐った腸の臭いする」
「けど……テュルパン様は考え込んでた……」
その時、警戒に当たっていた騎士が声を上げた。
「リッヒンデル卿が戻ったぞ!」
「行こう!!」
約束の一時間、その三分前に戻ってきたリッヒンデルは傷一つなかった。
「無事だな」
「あぁ」
「マサの様子は?」
「陥落してた。鉄王冠国軍だ」
「そんなばかな…」
「信じられない…」
騎士達は驚きを禁じ得ない。
「ふ~む。マサに駐屯しとる騎士は手練れ揃いであったと記憶しておるが」
「よほど実力のある敵将が司令官ということか?おい、司令官の顔は見たか?」
「……それらしい奴は見た。カメラにも撮ってある」
「どんな奴だ?」
「女だ。小娘だよ」
「小娘⁉」
「年頃は十代前後。将来いい女になる顔をしてた。やってることは残忍だった。いい女に育つ前に殺しておくべきだろうな」
リッヒンデルの内心に渦巻く怒りを感じ取った仲間が彼の身体を叩いて慰める。
「リッヒンデル卿。ご苦労さまでした」
天幕から出てきたテュルパン。
「では私はこれで失礼するよ。あ、約束は守っておくれよ」
「グリマルディ公。神の目は欺けません。忘れないことです」
ハーレクインはヒラヒラと手を振って去った。
「あの…あいつは…」
「マサを迂回してエベネーザに急ぎます」
ポーを制止してテュルパンは指示を出す。
「リッヒンデル卿。マサの様子は?」
「敵は精兵です。マサには近付くべきではありません」
「奪還は不可能と判断しましょう。ですが、マサに敵軍を閉じ込める必要があります」
「どうやって?」
「それは策略に長けた者の仕事です。すでに依頼は申し入れてあります。我々はただ走るだけです」
「あの男は信用なりません」
「同感です」
「蛇の丸焼き。うまい」
ポー達はクーリーをぎょっとして見た。
「あいつはとんでもなく不味そう」
騎士達は忍び笑いをもらした。
「あと一息です。無事に到着した暁には教会秘蔵のホットワインを皆に振る舞いましょう」
ポー達は支度を整え、雪原の中を走り出したのだった。




