同盟暦512年・暗躍公5
リッヒンデルは小高い丘で身を潜めていた。
都市マサが見える。
何本もの煙が立ち上り、城壁には鉄王冠国の軍旗が掲げられている。
「…………マサが陥落してる。本当だったのか…」
リッヒンデルは馬からカメラ(ダゲレオタイプ)を下ろす。
敵の軍勢や街の様子をカメラで撮る。
「司令官の顔が撮れれば最高なんだが…」
頭に雪が降り積もるもリッヒンデルは気にしない。
「(これだけ手早く制圧する事を考えると、名の知れた騎士長か、将軍だろう。……一番に思いつくのはカール・シャルルマーニュ卿か、それともホルガー・ダンスク卿……ん?)」
城門に現れた鎧兜に身を固めた騎士達。
身なりで上位騎士だと分かる。
先頭を歩く小柄な騎士を見てリッヒンデルは彼が司令官だと理解した。
「(誰だ……?随分小さい男だが……それに紋章も見たことがない…)」
鉄王冠国の有望とされる騎士の大半の名を記憶しているリッヒンデルも覚えのない家紋の旗だ。
そのうち騎士は兜に手を掛けるとそれを一息に脱いだ。
金色の短髪が寒風になびいた。
年若い女騎士だった。
「(女…⁉)」
名をゴルゴー・パルタ(17歳・女)というがリッヒンデルが知るよしはない。
「(我が目を疑うぜ……ホントに……)」
ゴルゴーの姿を撮るとリッヒンデルは速やかに仲間のもとに戻ろうとする。
その時、城門から引き出される手を縄で繋がれた住民
達が目に入る。
リッヒンデルには見覚えがあった。
「(……………)」
顔なじみの知り合いだ。
兵士だけでなく鍛冶屋や肉屋、靴屋の男衆がいた。
共通するのは立派な体躯をしている男ということ。
「(…………くそ………"そういう事"かよ……)」
ゴルゴーは配下の兵に指示を出した。
住民は地面に膝をつかされた。
戦斧を握り締めた騎士が背後に立つ。
そして順番に斬首された。
時間をかけて一人一人、住民は首を刎ねられる。
リッヒンデルは頭を抱えて呻く。
「(…………これは、……"撒き餌"と"間引き"を狙ったものだ。前もって戦える者を処理しつつ、残虐に公開処刑することで俺のような斥候をあぶり出そうとしている……)」
怒りで震える両手にリッヒンデルは苦笑する。
「(……はは、俺も"ギリギリ"か……自制心が吹っ飛びそうだぜ……)」
カメラを馬にくくりつけリッヒンデルは馬に乗る。
深呼吸して、故郷の街を一瞥する。
「その顔は覚えたからな……女……」
リッヒンデルは呟いて馬を走らせた。




