同盟暦512年・暗躍公4
「嫌い」
クーリーは地面に唾を吐いた。
「好意的な奴なんているものか」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
天幕の中は沈黙に包まれる。
ポーは怒りで身体を震わせる。
テュルパンは何かに気づいたのか考え込む。
ハーレクインは盛大に煙を吐いて口火を切った。
「ビクトンに滞在している時、私のもとに皇帝陛下の使者が訪れてね。依頼を申し込まれた」
「依頼とは?」
「演出家としての才能を買われたようでね。全国の諸王を招いた宴であっと驚くサプライズを用意したいという内容だった。金払いも破格、何より愉しそうな依頼だった。断る理由も見つからないから二つ返事で引き受けたんだ」
「そして完成したのが"ヘリオガバルスの薔薇"か」
「残念だが違う」
「違う?」
「私が創造した物語はもっと愉快で滑稽な裸の王様の物語だよ」
ポーは不愉快な気持ちがこみ上げた。
「ダミートリアス王の死は"ついで"だよ。ベアトリス姫の美貌のとばっちりを受けただけに過ぎない」
「…………なんだと…………?」
ポーは愕然とした。
「皇帝陛下は全ての臣民に知らしめる為に、あの舞台劇を開いた。自分自身の女の美しさがベアトリス姫に劣っていない事。そして男としてベアトリス姫の支配者だということを事実とする為に衆人環視の中、陵辱した。本人は至って真っ当な愛の行為だと信じているがね」
「……狂ってる……」
「さて、私が話せるのはここまでだ」
「……どういうことです?」
テュルパンが目つきを細める。
「誤解しないでほしい。私も話したいがこの通り、手を打たれてね」
ハーレクインが襟を緩めて首を見せる。
首筋についた円状の痣。
「……呪いですか」
「皇帝陛下の名誉を貶める言葉を言えば首が落ちる呪いをかけられてね」
「その割には雄弁だったな」
「人は喋らないと生きていけないものだよ」
ポーはハーレクインが気に入らない。
「……グリマルディ公、貴方の目的は分かりました」
「聡明な方は話が早くて助かるよ」
「どういうことです?」
ポーの疑念にテュルパンは答えなかった。




