同盟暦512年・暗躍公2
騎士達は殺気を放ち身構えた。
だが真っ先に動いたのはポーだった。
一切の躊躇なく剣を抜き払うと、ハーレクイン目掛けて投げつけた。
「おおーっと」
枝から滑るように飛び降り、地面に着地するハーレクイン。
「死ね」
ポーは短剣を抜いて脇に抱えてハーレクインにぶつかった。
ハーレクインはパイプで短剣を絡めて奪うと闘牛士のようにひらりとポーの突進を回避した。
「はて?私は君に恨まれる覚えはないが?」
「俺は白雪国の騎士だっ!お前は絶対に許さない!」
「ふーむ」
ポーの攻撃を飄々と躱しながらハーレクインはポンッと手を合わせた。
「もしかして薔薇のことかい?」
「貴様っ‼」
「それなら誤解だよ。僕は演出を担当したのであって、アレが起きたのは皇帝陛下のアドリブだ。おかげで僕の渾身の無作品が台無しだよ」
ハーレクインはポーの手から短剣を叩き落し、足を引っかけ転ばせた。
「さてと。では確認するけど君達はベアトリス姫の護衛一行で間違いないかい?」
「こちらこそ問いたいですね。なぜ北の地におられるのです?ここはあなたの遊び場ではありませんよ」
「ご高名なテュルパン大司祭とお会いできて光栄ですよ」
「私は貴方とお会いしたくはなかったですよ。暗躍公の二つ名を知る身としては猶更です」
「随分嫌われたものだ。せっかく協力しようと遠い北の地まで足を伸ばしたというのに」
「協力だと?」
ポーは起き上がり、投げた剣を回収する。
「そうとも。君達、マサに行くんだろう?」
「それがなんだ⁉」
「マサは陥落したよ」
煙を吐くハーレクインは事もなげに言った。
「マサが?」
「ふ、ふざけるな!」
騎士達は突然突きつけられた言葉に動揺する。
「残念だけど本当さ。鉄王冠国軍が実に鮮やかに制圧してしまったよ。あれだね、電光石火の早業と言うべきものだった」
「それを信じろと?」
「私は味方さ」
胸を張るハーレクインを信じる騎士はいない。
「テュルパン様、俺がマサの様子を見てきます」
リッヒンデルはマサ出身の騎士だ。
「グリマルディ公の言が真実なら危険ですよ」
「地元の人間しか知らない道を知っています。馬に乗れば一時間で戻れます。……もし戻らなければ、死んだとご判断下さい」
「…………わかりました。リッヒンデル、くれぐれも冷静に行動するように」
「はっ!」
リッヒンデルは一番足の速い馬を借りて、マサに向けて走り去った。
「さて…グリマルディ公」
「?なんだい?」
「あの劇のことをお聞かせ願いましょう」
「もちろんだとも」
「ポー。貴方も同席なさい」
「こんな奴の話しなんて!」
「我々は遠からず決断を迫られます。その時、何も知らないまはまではいけません。たとえおぞましい真実であっても、知らねばなりません」
ポーは煮えたぎる怒りを深呼吸して静めた。




