同盟暦512年・暗躍公1
光る雀に案内されて一行は惑い魔女の森を抜けることに成功した。
「うぉ...寒い...。たまらなく恋しい寒さと風だッ」
アランドロンは両腕を広げて全身に寒風を浴びた。
他の騎士達も故郷の風の冷たさに顔をほころばせた。
「ここはたしか...。うん、間違いない。マサが近いぞ」
「マサだと?...言われてみれば、マサ氷原だ」
北方の中間地点をマサ氷原といい、近くに大都市マサがある。
「ちょっと待て...森を抜けただけなのに、どうしてこんな場所に出るんだ?。いや、それより森はどこに消えた?」
騎士の言葉を証明するように森は影も形もなかった。
「これが惑い魔女の森です。魔女の気まぐれによりますが、出たい場所に出ることができる魔法が掛けられています」
「なんと…」
「それなら都に出すべき。魔女ケチ」
クーリーはアグラオニケが嫌いだった。
「故に気まぐれなのですよ。魔女はどれだけ気に入った相手であろうと、望みを全て叶えるような事はしません」
テュルパンはクーリーを宥める。
「時間と距離を大きく短縮できました。マサに行けば太守が迎え入れてくれるはずです」
「北都エベネーザに連絡鳩を飛ばすこともできますね」
騎士達はこれからの対応策について議論の声を上げた。
「アーネスト」
ポーは馬車の中にいたアーネストを呼び出した。
「なによ?」
「姫様のご様子は?」
「眠ってるわ。安らかな表情してる。起こさないで」
「……そうか……眠れている、か……」
ポーは安堵した。
一行はマサ氷原を進んでいく。
氷の土地に生える氷の木々"霜樹"。
途中、一際大きい大木の霜樹が見えた。
「おお!こいつはすごい!これほど立派な霜樹は初めて見たぞ!」
「それだけじゃないぞ。枝を見ろ、実がなっている」
「こりゃ珍しいぞ」
霜樹は滅多に実をつけない。
実った果実は硝子林檎と呼ばれる希少な果実だ。
林檎というが、見た目は蟠桃に似ており、味も独特で林檎と桃が混じり合ったような甘露な味わいだ。
「とってくる」
抱きつくポーから離れ、馬から下りたクーリーは一直線に霜樹に向かい、木を登る。
「……食い物と見るやこれだもんなぁ」
レオリックスは苦笑した。
クーリー、硝子林檎を取ろうとして、突然声をかけられた。
「やぁ。遅かったね。待ちくたびれて永眠するところだった」
美貌の青年、ハーレクイン(?歳・男)は太い枝に寝転がりパイプを吹かしていた。
「誰?」
「見ての通り暇を持て余してる男さ」
「馬鹿?」
「いやいやもしかしたら悪党かもしれないね」
ハーレクインはベロッと舌を出した。
舌に刻まれた蛇のタトゥーを見て、アランドロンが剣を引き抜いた。
顔は怒りで真っ赤に染まっている。
「そいつから離れろ!」
即座にクーリーは飛び降りた。
「年の功は違うと褒めるべきな?騎士アランドロン殿」
「グリマルディ暗躍公ハーレクイン!」
「我らが王の仇の一人めが!」
アランドロンは叫んだ。




