同盟暦512年・脱出行1
鉄王冠国王都ランゴバルドの城下町。
スラム街の安宿の二階部屋でポー・アラン・フェニックス(16歳・少年)は膝を抱えている。
「ポー」
階段を上がってきたリッヒンデル・ロスコー(23歳・青年)はポーの肩に手を置く。
「疲れたろ。少しでも休め」
「…………俺のせいです。俺のせいで…」
「自分を責めるな」
身体を震わせ泣くポー。
「俺が…ダミートリアス様を……」
数時間前、ポーは主君であるダミートリアス・スクルージの首を刎ねていた。
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西の大陸は十二同盟諸国という十二の国家が協力体制を築くことで統一と平和を維持していた。
しかし国力の差は貧富と身分の差でもある。
十二国のうち三国は上国と呼ばれ、残り九国が下国と呼ばれていた。
北の辺境一帯を領土とするのが、白雪国だ。
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リッヒンデルはかける言葉をなくして肩を落として一階へ下りていく。
しばらく時間が経つ。
部屋の扉が開き、医者とベアトリスの侍女のアーネスト(16歳・少女)が出てきた。
「とにかく安静にするように。身体の傷より心の傷がとても深い。常に注意して一人にさせないように」
「はい。ありがとうございます」
医者はちらりとポーを見て、一礼して一階へと下りた。
「アーネスト…ベア…姫様は…」
「……!」
アーネストは立ち上がったポーの顔を力一杯殴った。
顔を怒りで赤くさせ、涙を堪えていた。
「なんなのよ……なんでなのよ!」
「なんであんな酷いことができるのよっ!」
悲痛な叫びだった。
アーネストはポーを殴り続ける。
ポーは一切抵抗しない。
騒ぎを聞きつけた者達が集まり、アーネストを引き離した。
「よせ!」
「何よ!あんたたちも同罪よ!なんで、なんで姫様を助けなかったのよ!」
「助けようとしたさ!俺たちだって!」
「できなかったくせに!」
「! お前、それ以上言ってみろ!許さんぞ!」
いきり立つ中、大司祭で騎士のテュルパン(46歳・壮年男)が頭に血が上った者達に水を掛けて回った。
「うわあー!」
「な、なにするんですか⁉テュルパン様!」
「冷や水です。頭は冷めましたか?」
テュルパンは微笑みポーを助け起こした。
「大丈夫ですか?ポー?」
「は、はい…」
「アーネスト、そして皆もよく聞きなさい。我々はこれより王都ランゴバルドを脱出して必ずや白雪国に辿り着かなくてはなりません」
テュルパンは言い聞かせる。
「おそらくヘリオガバルスは見逃さないでしょう。我々を…なにより姫様を」
ヘリオガバルスの名を聞いた途端、全員が怒りの表情を浮かべた。
鉄王冠国国王ヘリオガバルス・フェッレアこそ全ての悲劇の元凶だった。