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いかないでとさようなら

 赤コートの集団エクリプスの介入によって、イルカたちは死に、りんごたちは生きのびた。

 イルカの呪いによって殺されてしまった人もいたけれど、それはりんごのよく知らない人だった。

 りんごは、知らない人だからよかったとは思いたくなかったけれど、静かの丘の仲間たちが生存を喜び励まし合っているのを見ると、そう思わずにはいられなかった。


 突き飛ばされたり噛みつかれたりした人は多い。

 イルカは別に特別な毒を持っているわけじゃないから、傷を洗えば大丈夫だという。

 前回の襲撃でむすびが死んだのは、イルカの群れの中に取り残されてしまったからだそうだ。


 エクリプスたちは消毒薬や包帯に使える綺麗な布などを分けてくれた。

 彼らはりんごの時代の文明が滅びたあとに結成された古い集団で、文明の痕跡を集めて科学技術の再建を志しているという。

 組織化されており、「こんなところよりもよっぽど文化的な生活」を送っており、危険生物に対抗するために武器も所持している。


 イルカを射殺した武器は、筒をしゅこしゅことしごいて空気を圧縮し、レバーを引くと空気が解放されて尖った弾が発射される、いわゆるポンプ式の空気銃というものらしい。

 赤コートは「もちろん、火薬式もありますがね。まだ暴発が多いうえに、火薬を持って嵐の海は越えられませんから」と付け加えた。


 武器だけじゃない。望遠鏡や地図みたいなものも携帯していたし、彼らは船までも持っていた。


 エクリプスは嵐の大洋の向こうから蒸気仕掛けの小型艇でやってきたのだ。

 それから、みんなが嵐の大洋と呼ぶ場所はりんごの時代には陸地だった場所で、隕石が落ちた影響でくぼんで海水が流れこんでできたものだと教えてくれた。


 地球上には、たくさんの冷凍睡眠施設がある。

 そのほとんどは災害に巻きこまれて機能を停止し、コールドスリープを受けた人の大半はそのまま目覚めることはなかった。

 けれど、奇跡的に生き残った施設があったり、カプセルだけが無事に発見されるケースがあり、エクリプスはそれらを回収してかこびとの保護をおこなっているのだ。

 嵐の大洋の近くにも最近、施設が発見されていた。

 その施設は大破していて、カプセルの多くも流出してしまっていたものの、予備電源が生きていて何人かの蘇生が果たされたらしい。

 りんごもカプセルが無事なまま海に放りだされて流れ着き、そうして目覚めたのだろうと聞かされた。


 りんごは彼らから紙を束ねた名簿を手渡された。

 リストには日本人の名前がずらっと書かれている。

 漢字名とふりがな。それから職業。彼らが記録したかこびとたちの名前だ。


 そして、行の最後には「成功・失敗」とあり、その多くは「失敗」と記されていた。


 りんごは彼らの勧めで、リストを検めた。

 合格発表を見るときのように、心臓がどきどきした。

 探しているのに、見つからないように、見つけられないように、どこか目の焦点をぼかしながら。


 心臓が凍る。宮沢。でも、知らない名前。

 家族もだけれど、知人の名前の文字が目の端に映るたびに、どきりとしてしまう。


 ざっと見たものの、結局は知り合いの名前を見つけられなかった。

 それでよかった気もする。行の最後の欄は、九割がたが「失敗」だったから。


 鉛筆を手渡され、りんごもリストに名前を書くように促された。

 彼女は少し迷ったあと「宮沢苹果、学生」と記して名簿を返した。


「蘇生したのはどのくらい前ですか? 七十五時間、三日は経過していますか?」


 うなずくと赤コートは名簿に何かを書き足した。

 次いで、「学問は何が得意でしたか」と聞かれて、正直に答えた。

 彼は「なるほど」と言ったけれど、どこか残念そうだった。



 そして、りんごは「あなたも私たちのところに来ませんか?」と問われた。



 エクリプスたちは言う。

 文化的な暮らしができますよと。

 月の隠れる前、十九世紀から二十世紀程度の生活水準と、少しの電子機器もあるそうだ。


 エクリプスたちは言う。

 あなたは選ばれし者なのですよと。

 たまたま施設が無事で、たまたま蘇生が成功して、たまたま我らと出会えたのだから。


 それから、あなたのご家族が見つかる確率も、よそにいるよりもずっと高い。


 りんごは家族の管理ナンバーが連番になっていたのを思い出す。

 確かにそうかもしれない。

 カプセルは並んでいたずだ。

 お父さん、お母さん、お姉ちゃん、わたし。


 会えるものなら、会いたい。


 けれど、りんごはすぐに返事ができなかった。

 なんとなく、赤い人たちのことが好きになれなかったから。


 だって、これらの話は、りんごだけが呼び出されておこなわれていたし、集落のみんなが銃や船を見たがっても彼らは決して応じなかったから。

 それに何より、彼らの口ぶりが気に障った。


 白紙のかたたち。白のひとびと。


 エクリプスはみんなのことを、そう呼んだ。

 頭の中が空っぽで、まっしろになってるんだって言う。

 白色で呼ぶのはまだマシ。

 科学を忘れてしまった人たち。発展性が無く、日々を生きるので手一杯な人たち。

 中には「原始人」と言ってのけたメンバーもいて、りんごはどきりとした。


「数日はこの付近の調査をしますから、引き揚げるまでに決めてくれれば結構です」


 エクリプスたちはそう言い残すと、他の集落を探して去っていった。

 ハカセも戻ってこないかと声を掛けられていて、とうとう彼がかこびとだということがみんなにバレた。

 もっとも、隠していたことを怒る人はいなかったけれど。



 りんごは悩む。

 ちゃんとした生活が送れるのなら、そのほうがいい。

 ほかにも蘇生した人がいるのなら、話も通じやすいだろうし、知り合いじゃなくてもすぐに仲良くなれそうだ。

 家族だって見つかるかもしれない。今はまだ眠っていても、いつかはエクリプスに身を寄せるかもしれない。


 りんごは、まだ晴れたままの嵐の大洋を見つめた。

 海が、海がゆっくりと揺れている。

 ぼやけた太陽の赤い影が凪ぎの中へと、沈んでいく。

 あの向こうに、お姉ちゃんたちがいるかもしれないのだ。


 靴と靴下を脱ぎ、薄桃色に光る波に足を浸す。

 冷たい。骨から冷えて痛むほどに、冷たい水。


「会いたいよ、お姉ちゃん」


 りんごは目を閉じた。

 けれど浮かんだのは家族のことではなく、ずっといっしょだったかぐや、イルカに立ち向かったカリト、それからカリトやりんごのことを身を挺して守ろうとしたハカセの姿だ。


 エクリプスは多くを語らなかった。

 嘘つきかもしれない。かこびとを利用したいだけかもしれない。

 もしかしたら、人体実験のようなこともされたりして。

 ハカセだって、逃げ出したって言っていたし。


 波が足首に打ちつける。


 彼らのことが、怖かった。

 イルカはりんごたちをイジメて殺そうとしていたけれど、それを容赦なく射殺したのが忘れられない。

 あの生臭いにおいはまだ、鼻にこびりついている。


 彼らは差別的だ。

 確かに、エクリプスたちの考えるように、かぐやたちはバカなのだろう。

 宝物はガラクタだし、月を妄信してるし、電子レンジは呪いだ。


 一方で、彼らがみんなの命を助けてくれたのは事実だ。ケガの治療だって手伝ってくれている。

 かこびととみらいびとの分け隔てなくやってくれていた。


 そしてあのとき、りんごの脚にかぐやが抱きついてすっぽんのように離さなかったことも、忘れることができない。



 りんごの中で、返事はすでに決まっていた。

 けれど、ハカセと話をしなくてはならない。

 彼に、エクリプスのことをもっとちゃんと聞いておかないと。



「りんご!」



 突然呼びかけられて、りんごの肩がびくんと跳ねた。

 振り返るとカリトがいた。彼は濡れるのも構わず波を蹴って隣にやってきた。

 それから、「あいつら、けちなんだよな。仲間に入れてくれって言っても、ダメだって言うんだ。おれ、役に立つのにな」。


 りんごはなんとなく微笑んでから、沈みいく太陽の影へと視線を戻した。


「行っちまうんだろ?」


 カリトは返事を待っている。


「なあ、りんご、行かないでくれよ」


 そう思ってもらえるのは嬉しい。でも、りんごは答えず、沖に向かって一歩だけ進んだ。


「かぐやから聞いたんだけどさ。昔は、結婚ってやつがあったんだってな」


 ……嫌な予感がする。


「赤い奴らのところなんていかないで、おれと結婚しないか?」


 やっぱり。

 りんごは、うっとなった。表情もその通りに歪んだ。多分、鏡があったら爆笑するくらい酷い顔をしていると思う。

 太陽のほうを向いていて、よかった。


「なあ、ダメか? おれがずっと守ってやるよ。なんとかしてあいつらの鉄砲ってやつも作って、イルカにも負けないようにするし」


 カリトが何か言っている。

 まさか海に向かって逃げるわけにもいかない。

 曖昧にしたらダメ。ちゃんと顔を見て、きっぱりとお断りをしなくっちゃ。


 カリトは大真面目な顔をしていた。

 まっすぐ、まっすぐ、りんごを見つめて。

 不覚にも、ちょっとだけカッコイイ気がした。



 だけどその向こうでは、かぐやが笑顔を引きつらせていた。



「あ、あの、私、りんごちゃんに、その、謝りたくって。イルカが来たとき、邪魔しちゃったし、それに、えっと、お父さんは海に出て行ったけど、死体とか、見つかってないから、その、もしかしたら……」


 

 さようなら。

 かぐやは叫び、走り出した。


 待って。

 りんごも叫び、追いかける。

 困っている男の子を振り返って「ごめんなさい。結婚は他の人として」と残して。


 かぐやは全力疾走だ。

 りんごもそう。運動は得意なほうだけど、やっぱり体力勝負の多いみらいびとのほうが足が速いらしい。

 ポニーテールを揺らす姿は、見る見るうちに小さくなっていく。


 待って、いかないで、かぐや。

 さようなら、りんごちゃん、さようなら。



 とうとう、りんごは親友の姿を見失ってしまった。



 それから、赤い人たちの言う通りだと思った。


「やっぱり、かぐやはバカだよ」


 瓦礫だらけの世界。

 目覚めたばかりのころはどこも同じに見えて、人類はなんて悲しい結末を辿ったんだろうって思ったっけ。


 けれども今は、あそこに突き立った錆びた標識が海から丘までのちょうど中間の位置だと知っている。

 あの遠くに見える廃車の群れは、豊かの城に行くときにいつも右手に見ているなじみのものだ。

 そこらに打ち棄てられたタイヤの中には、よくニクダマや巨大な虫が潜んでいるのも学んだ。


 それから、そこのビルの残骸には何度もかよったっけ。


 りんごは砕けたコンクリート部屋の一角で、女の子が膝をかかえて泣いているのを見つけた。


 ここはわたしたちの、秘密基地。


 りんごは静かに近付くと隣に座り、かぐやの肩を抱く。

 彼女はびくりと震えたけど、逃げたりはしなかった。


「お断りしてきた。告白された経験はあったけど、求婚されたのは初めてだったよ」

 笑いながら言う。


「……いっちゃうんだよね? カリトは私たちは連れてってもらえないって言ってた」

 かぐやは顔を上げずに、しゃくりあげながら聞いてきた。


「いかないよ。わたし、静かの丘で暮らすの」

「どうして?」

「ここが好きだから。わたしはここにいたくて、みんながわたしにいて欲しいと、思ってくれてるから」


 ぎゅっと友達を抱きしめる。かぐやは、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの酷い顔をしていた。


「でも、ハカセは言ってたよ。エクリプスたちといっしょにいたほうが、りんごちゃんは幸せになれるって。家族とも、会えるかもしれないって」

「何それ。あの人はまた勝手なこと言うんだから」


 りんごは怒った顔をして、ため息をついてみせた。

 それから笑顔に戻し、「かぐやたちといるほうが、幸せだよ」。


 けれどかぐやは笑ってくれなかった。むしろ、その表情は怒りに振れていた。


「じゃあ、どうしてカリトのこと、断ったの?」


「……は?」


 今、りんごが言った「は?」は「あ?」との中間の、印象がサイテーのやつだ。

 りんごは普段はそれを言わないようにしている。

 まあ、姉はよく使っていたけれど。


「はっきり言うけど、あいつのこと、嫌いだから」


 かぐやはまた表情を変えた。驚きと疑い。

 おでこにもほっぺたにも、「どうして」って書いてある。


「別に、かぐやがカリトのことを好きなのをヘンだとは言ってないよ。好きになって当たり前な事情も知ってるし、カリトにだっていいところもあるし。だけど、わたしからしたら、いろいろなことを足し合わせても、やっぱり好きにはなれないってだけ」


 かぐやは「本当に?」と訊ねる。

 りんごが「本当だよ」と答えれば、「じゃあ、ハカセのことが?」と訊かれた。


 りんごは苦笑して首を振る。

 ようやく、大好きなかぐやに嫌なところをひとつ見つけてしまったようだ。

 りんごは恋愛脳の子は苦手だった。

 常に誰かと付き合ってないと気が済まないとか、誰かと誰かをくっつけたがるとか、簡単に惚れちゃうとか。


 恋人にしたって、友達にしたって、相手の真意なんて簡単に測れるものじゃない。

 もっとゆっくり、時間を掛けて、話し合って。ちゃんと知ったうえで自分の気持ちを決めたい。

 その上で、お互いにお互いが一番になれればいいと思う。

 相性を試すために付きあう、なんて言う人もいるけど、りんごにとっては論外だ。

 わがままだなとも、臆病だなとも、理想論だなとも思う。でも、自分はそういうタイプなんだから、しょうがない。


「じゃあ、ストロングさんとか?」


 まだ聞くか。りんごは「違うよ」と答える。


「いい人だけど、ちょっとおじさんすぎるし、うるさいし、あと、髪の毛は剃ってないほうがいいかな」

「じゃあ誰が好きなの?」

「無理に好きな人を見つけなくったっていいでしょ? そのうち現れるよ」

「余裕そうだね」


 ちくり、かぐやの言葉にりんごは固まった。


「そんなの、りんごちゃんがかこびとだから言えるんだよ!」

 かぐやがいきり立つ。

「りんごちゃんの生まれた時代には、人はたくさんいたんでしょ? みんな、私たちより頭がよくて、清潔で、なんでも持ってて、いい暮らしをしてて!」


 かぐやが怒っている。とっても、怒っている。


「りんごちゃん、ホントは私たちのこと、バカにしてたんでしょ!」


 りんごの胸にナイフが突き刺さる。

 欠けもなくて、錆びてなんてない、鋭い鋭い言葉のナイフが。

 だけどりんごは、それを避けもしなければ抜きもしないで、「ごめんね」と謝った。


「本当にごめん。でも、今は違うと思う。いっしょに暮らしているうちに、みんなが頑張って生きてるって分かったの。わたしの時代の人たちと変わらないよ」


 かぐやは戸惑っているようだ。彼女は視線を下にそらした。


「わたしのこと、嫌いになっちゃったのなら寂しいけど、しょうがないと思う。でも、わたしはかぐやのことが大好きだし、いちばんの親友だと思ってるよ」


 かぐやは顔を上げ、声が出せなくなったかのように首を小さく振った。

 息もできないのか、苦しげに両腕を持ち上げて、手を中途半端にこちらに突き出している。


 りんごはその手をそっと取った。

 友達の手は拒絶こそはしなかったけれど、握り返してはくれなかった。


「りんごちゃん、ずるいよ。ずるい。それにやっぱり、すごい。私、りんごちゃんみたいに思えない。りんごちゃんのこと、大好きだよ。でも、カリトを取られたと思ったら、大嫌いになって。誤解だって分かっても、信じきれなくて。私、そんな自分がいちばん嫌いで」


 りんごはかぐやのことを抱きしめてやりたくなった。

 いいんだよって。

 それはすごく優しいことだと思う。けれど、できなかった。

 ちゃんと伝わらなくて嫌われたり、そうじゃなくっても、かぐやが勘違いした子になるかもしれないから。

 そうなれば、きっと残酷だ。


 腕が伸びないのが悔しい。完璧な人なんて、いない。誰にだって、すがるためのよるべが必要なのに。


 ここに残ることは決められた。

 カリトへのお断りも自分の意見だし、本心だ。

 だけど、これは決められそうもなかった。

 わたしのよるべ。今のりんごにとって、かぐやとのことは一番大切なことだから。


『お姉ちゃんなら、どうする?』


 ベランダのお茶会で、幾度もなく口にした言葉。

 姉はいつもちゃんとアドバイスをくれたけど、りんごは自分で訊ねておきながらも、そのほとんどを試したことがなかった。


『だからダメなんだよ。たまには自分で考えなさい』


 姉の顔がずいっと迫る。りんごはそれが怖くて首を縮めて、小声になってしまう。

 そしてこう言うのだ。


『お姉ちゃんみたいに上手くできないよ』


 いつもそう。いつでもそうだった。

 でも、今日はもうひとつ、思い出す。


『あたしも、上手に生きてるつもりなんて、ないんだけどね』


 いつの間にか夜。

 見上げても星ばかりで、月は無い。


「ねえ、りんごちゃん。私、どうしたらいいの?」

「……わたしね、独りで決める勇気がないんだと思う。誰かいないとダメなんだ」


 りんごがそう言うと、かぐやが「私だってそうだよ」と小さく呟く。


「だからね。かぐやちゃんにも、まだまだ助けて欲しいの」


 やっぱり、かぐやの言う通り。りんごはずるい。

 りんごは、かぐやが本当は仲良くしたいと思っているのは分かる。

 だから、こうやって遠回しに言って、お互いにはっきりと仲直りをしないまま、好きなように解釈できるようにしてしまうのだろう。

 都合の悪いことが起こったときに、やっぱり仲良くなかったことにできるから。


 素直じゃなくって、ごめんね。


 だけど、さよならよりはずっといい。


「あのね、ハカセとのこと、手伝ってくれない?」

 かぐやが何か返事をしかけたけど、りんごは言葉を継いでさえぎる。

 拒絶されるのが、怖いから。


「ハカセに聞きたいことがあるの。エクリプスたちもきっと、彼らなりに一所懸命やってると思うけど、あの人たちが、本当にわたしたちにとっていい人か分からないし。それにはやっぱりほら、ハカセに謝らないと。この前は冷たくしちゃって言いづらいし、イルカのときは助けてもらったから、お礼も……」


 矢継ぎ早に言葉をつむぎ続けるりんご。


 かぐやの表情が見る見るうちに変わっていく。

 それから、いつものようにりんごの手を握ると、やにわに駆けだした。

 これは、肯定的な返事? 否定的な返事?

 りんごには分からなかった。けど、かぐやは別のことに気を取られていたんだ。


「急いで戻ろう! 間に合わなくなっちゃうよ! ハカセ、赤いコートの人たちといっしょに、帰っちゃうんだよ! さようならなんだよ!」


***

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