Invasion_6
皆大好きあの兵器。
エルクラム王国第七魔術兵団基地へと帰還したシンファ・ユーク・エルクラムと僕、ケンジ・ナガイが目にしたのは、物々しい雰囲気の基地の様子だった。
ラーズ連邦の同時侵攻開始。
各地の前線基地で、連邦と交戦状態に入ったとのこと。そして、連邦との境界に近い、この基地も例外ではなく。連邦の攻撃があると予想されていた。
治療を終え、着替え直した僕と姫様は、しばらくぶりに生き返った心地だった。だが、状況は切迫しており、休んでいる暇などない。
今、僕たちがいるのは基地内部の会議室。
集められたのは第七魔術兵団に所属する魔術兵たちだ。部屋は薄暗く、壇上にはメリル戦隊長が立っている。
「皆も知っての通り、現在、各基地はラーズ連邦の侵攻に対して防衛行動に移っているわ。そして、この基地に対しても敵が攻撃を行ってくるのは時間の問題のはずよ」
中央に置かれた机が淡く翠に輝き、細かな魔力の粒子が吹き上がる。
続いて浮かび上がるのは、各地の状況を示す戦略図だ。
「幸いといえば良いか、敵の奇襲的攻撃に対して味方は善戦して、なんとか敵の侵攻を押し留めている状況よ」
戦略図上、連邦の占領地から伸びる複数の赤い矢印。
敵の侵攻を示したそれが王国の各拠点へと向かい、交戦状態に入っていることが表示される。
「けど、どこも戦力的余裕はない。私達は今ある戦力だけで敵を迎え撃たなければならないの………この新型機も」
表示が切り替わる。
映し出されたのは、何枚かの写真。黒い翼、機体の下部に装備された二門の砲。画像は粗いが間違いない。僕達を撃ち落とした連邦の新型機だ。
「先の遭遇戦において、単機で魔術儀を六儀落とした化け物。名称はXAF-04ルーク」
次に表示されたのは、現在判明している敵機の情報だ。
「まず、この機体は私達の探査魔術から隠匿できる高度なステルス性を備えていると考えられるわ。ただ、救出されたシンファ銀等兵とケンジ銅等兵の情報から、攻撃後はその性能も一時的に低下するものと考えられる」
既に自分たちへの聞き取りは終了しており、この場で、XAF-04ルークについて判明している情報を皆と共有する。
「そして、この機体の最大の脅威が、下部に搭載されている二門の兵器」
画面が切り替わり、XAF-04ルークと表示された▲と、四儀のナグルファルを示す△が地図に現れた。これは……僕たちの次に交戦したという応援部隊の戦闘記録?落とされた魔術儀から回収できた、ということか。
「電磁投射砲。連邦が開発していた新兵器で、極めて高い発射速度で実体弾を加速させて発射する武装だわ」
四儀のナグルファルは編隊を組んで飛んでいたが、XAF-04ルークから電磁投射砲が発射され、△一つが撃墜を示す×へと変わる───かなりの射程距離だ。これを当てられるのか。
「射程距離は約20000m。この新型はステルス性能で敵機に気づかれずに接近し、電磁投射砲で確実に魔術儀を落とすことを目的に開発されたのでしょうね」
残った三儀のナグルファルが散開する。
固まっていれば良い的だからだろう。だが、直ぐに電磁投射砲の二発目が放たれ、さらに一儀落とされた。僕と姫様が落とされた状況に似ている。
「確認できる電磁投射砲は二門。交互に打つことで、次弾装填の隙を減らしているわ。流石に連射して撃てる性能ではないのが救いかしら」
残った二儀のナグルファルがXAF-04ルークへと接近する。
だが、距離を詰められない。大型の武装を取り付けているのに、加速性能は通常の戦闘機と同等なのか。
▲と二つの△は追いかける形で動いていき───突如、地図上に現れた二機のAF-25戦闘機のミサイルによって落とされた。
にわかに室内がどよめく。
誘導された。部屋に居た誰かが言う。
「ほんと、連中厄介なものを開発したものね……この新型機が戦場に存在する限り、私達は従来の対戦闘機戦術を大きく制限される。ミサイルを迎撃するために足を止めれば電磁投射砲に撃たれ、逆に回避するために散開すれば、各個、護衛の戦闘機に落とされてしまう」
ざわめきが大きくなる。
「盾の防御魔術で電磁投射砲は防げないのか?」
「貫通力があるだろ、実体弾だぞ?いや、それよりどうやって照準を合わせている?」
「魔術儀のような体感操縦技術を連邦も開発した可能性は?それにしても射程距離がありすぎるが」
「装弾数はそう多くないはずだ、敵機の弾切れを狙うのは?」
「それまでひたすら逃げろって?ありえないね」
周りにいる魔術兵たちが互いに意見を交流し合う。
皆、僕より熟練の魔術儀乗りたち。開戦からここまで生き残っていた知恵と経験を合わせて、この難敵を攻略しようとしていた。
僕は隣にいる姫様に小さく声をかける。姫様はどうお考えですか?
「根本的にが………先程の戦闘記録にあるように、距離を離されるとナグルファルでは追いつけないのが問題だろう。こちらが足を止め、防御出来ないのであれば、どうにかして相手を攻撃、牽制する必要がある」
敵機の写真を静かに見つめながら、姫様は呟く。
「魔術兵の天敵、か。あの男の言うとおりだったな」
僕たちが捕虜にしたアイバック大尉の言葉を思い出す。
天敵。僕たちエルクラム王国の魔術儀を倒すために、ラーズ連邦が開発した兵器。
「少し落ち着きなさい」
メリル戦隊長が、ざわついた室内を鎮める。
「皆がこの危機を正しく理解できて何より。で、改めて何か妙案がないか意見をちょうだい。私達が勝つためにね」
重い沈黙が場を包む。
周りを見渡すと皆、難しい表情だ。
僕も思考を深め、これまで得た知識を思い返し、何か手立てがないか考える。必要なのは一体何だ? XAF-04ルークを包囲する………数で有利を取れれば可能かもしれないが、それは一か八かと変わらない。
敵の火力。
電磁投射砲を攻略し、近づく手段………煙幕?いや、空中だぞ。地上でもあるまいし、そんな装備があるわけがない───装備。
この基地に来た時に見たあれを、使えないのだろうか?
「ケンジ銅等兵?何か意見があるのかしら?」
気づけば手を上げて、発言をしようとしていた。
隣の姫様ですら、突然のことに怪訝な表情をし、メリル戦隊長は、新人に近い僕の行動に戸惑った様子だった。他の魔術兵の皆様の視線に緊張しながらも、僕は発言した。
「あれは……まだ実験段階のはずだけど。確か、少しの時間なら、使えたはずね」
それなら、あと、もう一点。
あれも、ナグルファルに持たせることは出来るのでしょうか。
「持つ?いや、分解したものなら出来るかもしれないけど───いったい何を考えているの?」
勿論。あの新兵器を倒す作戦です。