カウントダウン
3日後の夜。
庭に寝っ転がっていると、青年が来た。今日はレシプロの車でなく、エアモービルだ。
「やあ」
「こんばんは……いよいよですね」
「そうだね」
「何時に終わりなんです?」
「日付が変わったら、らしいよ」
別段、書面で通告が来ているわけでもない。ただそうなのだと、お告げのようなものが頭に響いているだけだ。
「どんな気分です?」
「何が?」
「長年の仕事が終わるというのは」
「特には」
「いやいや、何かあるでしょう? 達成感だったりとか、寂しさだったりとか」
「んー、いや、ないね」
「そんなものですか」
「そんなものだよ。まあキミも、3500年ばかりやってみたらわかるさ」
「僕はちょっと……遠慮したいですね」
青年が苦笑する。
そこから3時間ほど経って。
「ソラさん、今、23時58分です。あと2分弱ですね」
「うん」
「残り1分でカウントダウンしましょうか」
「いいよ別に」
そんなことしなくても、終われば天啓が来るだろう……いや、私は観測者でなくなるのだから、もう来ないのかもしれないが。
「うう、緊張してきた……」
「どうしてキミが……」
「あ、残り30秒です……28……27……26……」
「いらないというのに」
けれど、3500年の孤独の最後に、こうして誰かといるというのは……なんだか変な気分ではある。そこは素直に感謝すべきなのかもしれない。
「……7……6……5……4」
青年のカウントを耳に、私はいつものように、ぼうっと空を眺め続ける。
「……3……2……1」
さて。
「……ゼロ!」
高揚を抑えきれない青年の叫びが、響いた。
どこかで花火が上がるわけでもない、ファンファーレが鳴り響きもしない、けれど。
確かに、私の仕事が終わった。
「ふう。これで……」
何か気の利いた一言でも口にしよう。そう考えた瞬間、青年のウェアラブルデバイスがけたたましい音を上げた。
「緊急ニュース? なんだろう……」
投影モニタの記事に目を通す青年。その緊急速報に釣られてと言うわけでもないだろうが……ドクン、と心臓が大きく鼓動を刻む。
「あ……」
懐かしい、久々の感覚。そうだ、天啓だ。
「……大変ですよソラさん! ……ソラさん? どうしました!? ソラさん!?」
天啓が来ただけだから心配ないよ。
そう言葉にしたかったが、叶わぬまま、瞬くうちに私の意識は沈んでいったーー。