2000年越しの約束
「よ、っと。失礼するよ。ずっと座ったままじゃあ、首が痛い」
私は芝生に寝転がり、満点の星を見上げる。
「……信じられますよ、ソラさんの話」
座ったままの青年は、ボソリと呟いた。
「観測が存在を確定させるっていうのは、まあ昔から言われてきたことではあるんですけど、ここ十年くらいかな……研究が進んで、かなり科学的に実証されてきたんです。まだいくつか学術誌が出てるくらいですけど、ソラさんの言う“星の観測者”って概念に近しいものも提示されてるんですよ」
「……ほあ」
我ながら間抜けな声を出してしまう。
「いや、うん、信じてもらえるのはありがたいが……なるほどねえ。科学がねえ」
いかんせん、誰にも理解されないままに3500年を過ごしてきたわけで。「はいそうですその通りなんです」と突き付けられると、肩透かしな気分は少なからずあった。
「あーでもそう、年。そっちはなんで信じる気に?」
「3500歳、っていうのは本当かわかりませんが、少なくとも2000歳以上っていうのは確信できますよ」
ああ、やっぱりそうか。
だからこの子は、ここに来たんだな。
私はふう、と大きなため息を漏らした。
「律儀というか義理堅いというか、大がつくバカというか……2000年だよ」
「自分の家のことですけど、まあ、よく忘れられずに残ってたなって思いますよ」
「アイツはなんて?」
「月日のうちに散逸したのか、はたまた最初からそうだったのかはわかりませんが……至ってシンプルでした。“国道508号沿いのコーヒーショップに、見栄えはいいが生意気そうな顔のソラってお嬢ちゃんがいる。2000年経ったら会いに行ってくれ”と」
「誰が生意気だっ!!」
「ぼ、僕じゃありません! ご先祖ですよ言ったのは!」
今にも掴みかからんばかりの勢いで起き上がった私に、青年は慌てふためく。
「家族だろう、連帯責任だよ」
「全く実感の湧かない年月が経ってますけどね……。で、ソラさん。そのひいひいひい……祖父さんとは、何があったんです?」
「何が、ってほどのこともなかったんだ。本当に、アイツはたった一回来ただけのお客だったから。でもそうだね、キミには聞く権利があるだろう」
私はまた芝生に体を預けると、2000年前の来訪者に思いを巡らせた。