ピンポンダッシュ 2
そっくりなかわいい双子。
男の子と女の子で男の子は少しくせっ毛らしく、黒髪がくりんとはねていた。
女の子は肩くらいの長さの黒い髪で、前髪を花のピンでとめていた。
どっちも色が白くて、少し茶色がかった大きな目をしていた。
ホントに幽霊とは信じられないほど可愛い双子だ。
けれど格好が古臭い。どうやっても今時のものには見えないのだ。
というより普段着にしては、少し立派すぎる服装だ。
どちらもお揃いのシャツにジャケットを着て、男の子のは短いズボンにサスペンダーがついていて、女の子はレースの付いたひざ丈のスカートをはいていた。
なぜかそこに異常な違和感を覚えた。
「菜摘!!何して遊ぶ?」
ふと考えていると慧美が私を呼んだ。
「え・・・何って・・・。」
「だから、この子たちと何してあそぼっかって!」
双子たちは目を輝かせてこっちを見つめていた。
「うー・・・。えっと・・・何がしたい?」
私は双子に聞いてみることにした。
「ぼくはね、かくれんぼがいい!」
男の子が答えた。
「えぇー!いやだぁーゆみはおにごっこがいいー!!」
女の子が不満そうに答えた。どうやら名前はゆみというらしい。
「うーん・・・じゃあ先におにごっこやろうよ。」
男の子がゆみちゃんにそういった。
男の子のほうがゆみちゃんよりどこか大人っぽい感じがする。
「ホント?!やったぁ!ゆうありがとー!」
ゆみちゃんはよっぽどうれしいのかぴょんぴょんと跳ねている。
「はい!じゃあ鬼を決めよう!」
慧美が手をたたきそういった。
「いい?いくよ。じゃーんけーんぽん!」
「あーまけちゃった・・・。」
最初の鬼はゆみちゃんになった。
「じゃあ10びょうかぞえるね!!いーち、にーい、さーん・・・・
ゆみちゃんが数えてる間にそれぞれ家の中のどこかへ逃げた。
「あっ!おねーちゃんいたぁ!」
そう言ってゆみちゃんがこっちへ走ってきた。
このくらいの年の女の子にしては、結構足が速い。
「たーっち!」
「わぁーつかまっちゃった!」
私はわざと遅く走り、ゆみちゃんにタッチをさせた。
「じゃぁ!こんどはおねーちゃんがおにだよ!」
ゆみちゃんはとてもうれしそうにそういった。見ていると、とても微笑ましく思える。
――そのあと鬼ごっこをしばらくやったら、さすがに疲れてきたらしく、かくれんぼをすることになった。
鬼は私になった。皆それぞれの場所へ隠れたそのときだった。
「いたっ!!」
ゆみちゃんの声が聞こえた。
急いで見に行くと、何とゆみちゃんの足に包丁が深々と刺さっていた。
「いたい!いたい!!おねーちゃんいたいよー!!」
そう叫ぶゆみちゃんの足からは血が流れ出でいる。
とりあえず出血を止めようと、ゆみちゃんの足から包丁を抜いてハンカチできつく縛った。
ゆみちゃんはその間痛いと叫び続けていてとてもかわいそうだったが、何とか我慢してくれた。
話を聞くとどうやら台所へ隠れたゆみちゃんが、棚の中へ隠れようと戸をあけたはずみで、上にあった食器かごから包丁が落ちてきて、それが足に刺さってしまったそうだ。
どっちにしろ、このままではやばい。病院へ連れて行かなくてはと思っていると、二階から慧美とゆう君が降りてきた。
「どうしたの?」
慧美が私に聞いてくる。
「それが・・・かごから包丁が落ちて、それが足に刺さったらしくて・・・。とにかく病院に連れてかなきゃ・・・。」
「えっ?!ゆみ!大丈夫?!」
ゆう君がそう言いながらゆみちゃんの方へと駆け寄って行った。
「どうしよう・・・。車とか運転できないし。救急車呼ぶ?」
私は慧美に聞いた。
「うーん・・・でもさぁ、この子たちって幽霊だよね?病院連れてっても・・・。」
慧美はそういった。確かに言われてみればそうなのだが、血が出ているとそういうわけにもいかない。
「でも、出血してるし・・・、やっぱり連れてったほうがいいよ!」
私は慧美に言った。
「大丈夫だって。そんなさぁ、だって考えてみなよ?幽霊だって血まみれ出て来たりするじゃん。だからきっと・・・」
「何言ってるの・・・?」
慧美のいいかけた言葉を遮ったのはゆう君だった。
その声は今まで聞いたどの声よりも、低くて太く、とても気味悪かった。
「え・・・、何って・・・だって君たち幽霊だよね?だったら病院いかなくても・・・」
慧美がゆう君に言い返した。こういうところは慧美の長所でもあり、短所でもある。
ゆう君にとっては慧美の発言は後者に思われたらしい。
「何で?幽霊だって痛いんだよ・・・?夕実が・・・夕実が可哀想・・・。」
ゆう君の声はさらに低くなる。私はいやな予感がした。
「ゆう?ゆみは大丈夫だよ?」
ゆみちゃんはゆう君に向かって言う。あれだけ酷い怪我をしたのに、なんて強い子なんだろう。
私はゆみちゃんの我慢強さに感心した。
「だめだよ夕実。病院いかなきゃ・・・。もしも夕実が死んだら、僕も死ぬ。」
ゆう君は相変わらず低い声で静かに言った。その声がやけに響いて居心地が悪い。
正直言って、ゆう君のゆみちゃんに対する執着心は普通じゃない。なぜここまでするのか私には分からないが。
「ほら、ゆみちゃんも大丈夫って言ってるし。ね、ゆう君?」
慧美がそう言った。でも私にはその言葉は言ってはいけないような気がした。
ゆう君が顔を上げた。目が驚くほど鋭くなっている。
「・・・・わかったよ。――じゃあお姉ちゃん。お姉ちゃんも、僕らの痛みを味わってみて?」
「・・・え・・・?」