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生まれたら人間じゃなかった 1

 人としての意識を持ちながら植物に生まれ変わったこの恐怖わかるだろうか。

 動けない私は、ただただここからどうやって自分の安全を確保するか、どんどん短くなっていくことを感じる自分の命。次はせめて樹木になりたい。

 

 周りには私と同じ七色の大きな花弁をつけた花で溢れている。この花が竜の主食であると知った時の恐怖と言ったら! 


「肉食じゃないんかい」


 竜って肉を食べるんじゃないの?草食だなんて初耳なんだけど。しかも葉っぱは食べずに花の部分だけをパクリと。

 そんなに食べられても絶滅せずに残っているということは繁殖力が高いということなのかもしれない。

 花は食べられても残ってるということは地下茎で増えているのかな何て考えてみたりする。

 自分の体のことなのにまだ完全には把握しきれていないのだ。


 せめて竜とお話しでもできればまた何か違うのかもしれないが花である私が会話する事なんて出来なくて当たり前であり、動けないこの状態は焦燥感と不安でいっぱい。


 そして私は今日もどうにかできないか一生懸命思案する。突然変異が起きないかと一生懸命に念じる。

 だって日本にもあるじゃない、長く大事に使われたものに命が宿った付喪神やファンタジーでおなじみの進化や、妖精や精霊の類のおかげで動けるようになるとか。この世界にあるのかどうかわからないけど魔力がいっぱいの人が何かしてくれて命が宿るとかあるじゃない。

 私はそういうことを期待しながらどうにかならないものかと日々悶々としている。妄想の世界ではもう人形に慣れて世界に旅立っているんだけどね!


 そんな私の体に目に見えて変化が出てきた。七色の花びらがしおしおとしてきたのだ。


「あーやっぱり朽ち果ててしまうんだ。私は特別じゃなかった。人間とまでは言わないけれどせめてもっと長生きできる可能性の高い樹木、いや大木になりたかったなー。植物の次は虫はすっ飛ばしてちょっとかわいい動物とかいやでもそれだと他の肉食獣に食べられちゃうか。なんでもいいとは言わないけれど動けて話し相手がいる生き物になりたいなー。っていうか次はやっぱりこんなわけのわからない世界じゃなくて地球がいいんだけど!そもそも記憶があるのがおかしいじゃない。次は本当に平等に生まれさせてください」   


 私が長生きや生について願ったせいだろうか、ここまで竜に食べられることなく過ごせてきたが、私の体は次代に向けて種を作り始めた。

 七色の中で私だけが姿形を変えていく。


「あれ?」   


 もしかして変なこと考えなければ運良く竜に食べられることなく、まだまだ花を咲かせていられたんじゃな?ここで花が枯れたのなんて見たことなかったじゃん。なぜ気づかなかった私!



 私の体はついに種になった。自分の体がミラーボールのようにキラキラ輝いているのは気のせいじゃないはずだ。


「絶対目立ってるよね。すごくやばい予感がするんだけど」


 それは外れることなく今まで他の花と同じだったはずの私はこの中で珍しいものになり、やはり竜の目に止まってしまった。


「でーすーよーね〜!」


 私にはないはずの目と竜の目が合ったような気がした。


 勝手に生臭いと思っていた竜の口は食べるのは私たちのような美しい花のせいか、とても爽やかでいい香りであった。これぞまさにフローラル!

 噛まれると砕かれて痛いんだろうなぁそう考えた時、欠けたのか虫歯なのか私には判別がつかないが歯の中に極小の穴が見えた。私は心の中で動け動けと必死に念じる。体よ動けとこれまでにないほど一生懸命念じる。砕かれたら絶対痛いはずだとちょっと前まではぼんやりとしか考えてなかったがそれが目前に迫り回避しようと必死になった。

 歯の穴に逃げた後のことなんてわからない。そこまで考える余裕もない。今はただ噛み砕かれないために必死にそこを目指す。

 竜の舌が噛み砕くためか飲み込むためかの為に奥へ誘導するのをうまく利用してそこに入り込もうと頑張って頑張って頑張って死ぬほど頑張ってただただそこを目指す。


 歯の穴にうまく転がり込めた私は、仕方ないのだが竜の奥歯にガシリと噛まれた。

 幸か不幸かその噛まれるという行為によって砕けることなく無事に歯の穴の中にしっかりはまり固定された。でもあの歯が迫ってくる強さと打ち付けられた強さと痛さとその衝撃はきっとずっと忘れられないに違いない。


 この場所でとりあえず胃液からは守られたと考えてよいのだろうか。一安心でいいのかな。




 なんて呑気に考えていた私を笑ってやりたい。

 竜は花を丸呑みではなくきちんと咀嚼しているのだ。歯の場所にはまっている私はくちゃくちゃと七色の花を体に擦り付けられている状態である。いい匂いだけれど気持ち悪い。感触はないのでくちゃくちゃのイメージは自分が人間だった時に生野菜を食べていた口の中のイメージだ。こびりつくこともなく水を飲んでくれればすぐに流れていくので汚れている感じもないがなんだかすごく気持ち悪い。あくまで気分の問題だが。


 そして辛いのが全く外の景色を見れなくなったことである。せいぜいあくびをした時に空が少し見れるその程度だ。食事の時は花が塞いで外を見ることはできない。本当に残念である。


 

 

 暇に拍車がかかった。竜に話しかけてみたがやはり言葉は届いていないようで会話は全く成り立たない。一週間ほどだろうか、そのくらいで竜に向けて話しかけるのをやめた。

 仕方ないので暇つぶしに毎日歌を歌っている。出られない鬱憤うっぷんを吐き出すこともあったりもしながら。

 暦があるわけでも時計があるわけでもないので感覚でしかないが、半年くらい経ったのだろうか。この口の中で腐るわけでも発芽するわけでもなく存在し続けている自分の存在がようやくおかしなものではないかと言う疑問を抱くようになった。

 私どんだけ毎日歌を歌うだけの日々だったのだろう。

 考えることもすっかり放棄していて、ここにきてようやく自分について再び考え始めたのである。


 一時期、竜が私が歌うと一緒に体を揺らしてくれていたような気がしたのだが、それも気のせいだったらしく最近は少し食事をしては眠っている時間が多くなった。

 試しに話しかけてみたこともあったがやはり会話が成り立つわけではないようで返事が来ることは一度もなかった。


 考える歌う考える歌うの繰り返しの日々。


 考えるのに疲れた私はふと思う。


「芽が出る時って、その前に根が出るじゃん。ちょっと発根の努力してみようかな」 


 運が良ければ種になった時みたいに何か起きて状況が変わるかもしれない。

 ここにある栄養分って言ったら口から入ってくる仲間の花と水と竜だけだ。花と水はあっという間に飲み込まれて流れていってしまう。


「私は根を張る、そう、この竜の体に張り巡らしてこれだけ体が大きいんだからちょっと栄養いただいて一箇所から貰っちゃ悪いからまんべんなくあちこちから頂いて、お?いい感じで根が生えてる気がしてきた!」


 私は少しずつ栄養を分けてもらえてる気分を味わいながら、いや、だって、発芽のイメージをしても全く発芽しないんだもん。でもその代わりまんべんなく張り巡らせた根がなんだかうまく馴染んだようで、竜を通して色々な情報を得ることができていることに気がついた。


「うーん、この竜、体は元気だけど精神的にだいぶ弱ってない?」 


 そんな感じで竜の様子を観察していたが、ある時、ふっと強く引き込まれた感じがあったかと思ったら私は高い位置から外を眺めていた。



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