07 音源で見たもの
俺は音のした方角へ走った。
「何の音だ?俺が目標から離れたから呼び寄せるためか?」
何かの企画に巻き込まれていると言う視点から考察をしていた。
「それにしては街に来てからの時間が経ちすぎてるか?」
時計が手元にないだけで自分の時間感覚が消える。
「普通の生活してたら時間感覚の狂いはマシなんかな」
酷い呼吸のリズムにも関わらず独り言がすらすらと発せられる。
今がマラソン大会なら俺はかなりいいタイムで走れてるのではないだろうか、だが疲れのせいだろうか考える余裕は無くなってきた。
そんな時音のした方角を見ると、黒煙が上がっている事に気が付いた。
「ここを曲がれば」
この街の道はすごく分かりやすい。京都の碁盤の目のようになっていて迷う要素がほとんど無かった。
俺は角を曲がり目にした光景に目を疑った。
「あれ、なんだ?なんかの催し物か?」
そこには人の形をしたライオンがいた。
「いや、人間の体にライオンの顔が乗っていると言った方が正しいか?」
体は動物のように毛で覆われていて、普通の人間より大きい。
一言で言うのであれば、ライオンの顔を持った巨人だ。
「キャー」
悲鳴のような声が耳に届いた。
近づくにつれハッキリ見える。鎧を着た兵士が盾と直剣を持ち交戦している。
俺は近くにあった木箱に身を隠し様子を見た。
ーーガシャン
兵士は持っている盾を使い巨人の薙ぎ払い攻撃を抑える。その隙に他の兵士が切りかかる。だが効果が薄いという事が素人目に見ても明らかであった。
一人の兵士が巨人の膝裏に剣を刺した。だが、
「効果なしか」
それはまるで気付いていないかのようであった。
刺した兵士を剣の刺さったその足で蹴り飛ばす。
「グアッ!!」
兵士は攻撃を受け止めることが出来ず吹き飛ばされる。
俺は持っていたベースケースに手をかけたその時だった。
ーーボン
俺は目を疑った。なぜなら巨人の目の前で何かが爆発したからだ。
「!!!!」
ガタイの良い兵士が巨人に向かい何かを叫んでいる。
「グウウウウ」
巨人はうめき声をあげガタイの良い兵士に殴りかかる。
ーーガン
鈍い音が鳴り響き巨人は体制を崩す。
「バケモンかよ」
ガタイの良い兵士は巨人の攻撃を盾で弾き返したのだ。
刹那、その兵士は火を纏った剣を片手に巨人に切りかかる。
ーーブォン
風を切る音がここまで確かに聞こえた。
「グアァァァァ」
巨人が悲鳴を上げる
ーーバンバン
巨人はたまらず手足を地面に叩き付け攻撃するがその兵士は意図も簡単に避ける。
「バケモンだな」
少し安心したその時何者かに服を引っ張られた。
瞬時に振り向くとそこには見知らぬ少女が二人。そのうち一人が俺を引っ張りながら何か叫んでいた。
だが少女たちの顔は本気そのもの、本来ならば可愛い顔立ちなのだろうが恐怖におびえた顔をし、俺に何かを必死に訴えている。
俺はこの子達にダメ元で言った。
「なんだよ、頼むから日本語で話してくれ!」
戦闘の騒音のせいで自然と声が大きく出てしまい驚いた。そして少女たちも驚いた顔をしている。いや恐怖の方が強いのか。
そこで気づく、少女たちの目線が俺を捉えていない事を。そして俺は少女たちの目線を追ってみる。
「ヴァァァ」
遠目に見えるのは膝をついたガタイの良い兵士、そして俺の目の前には兵士を相手に無双していた巨人。
そして巨人は手をあげている。攻撃前の動作だ。
「マジかよ」
俺の目の前で固まる一人の少女を手で突き飛ばす。そしてもう一人の腰を抜かした少女の手を掴み横の方向に飛び込む。
ーーバン
煙が舞い上がる。俺は抱えた少女を見て生きている事を確認した。
ーーボン
巨人付近で爆発が起きた。
「おっさんナイス!」
ガタイの良い兵士が爆発を起こして巨人の注意を引いてくれる。
巨人は俺たちに目もくれず兵士の方へ向き直る。
始めに突き飛ばした少女と目が合い生きている事を確認する。
最後に先ほどまでいた場所はものの見事に全てスクラップ状態だ。
「おいおい、当たってたら死んでたぞ俺。」
俺は突き飛ばした少女に手を引かれる。
「悪いが逃げない。ここまでされたんだ、撃ったって正当防衛さ。」
俺は少女に向かい通じない日本語を言いベースケースから銃を引き抜いた。
ーーバンバンカシャン
ガタイの良い兵士と巨人の怠慢が続いている。
俺は弾を詰めてあったマガジンをウエストポーチから取り出し銃にセットした。
ゲームでやっていた通りの操作をしていく。そして近くにあったイスに手と銃を置き固定する。
もともとついていたスコープを覗き射撃準備が整う。
「おっさん!なんでもいいから10秒止めてくれ!」
射撃初心者の俺が動いてる的に当たるわけがない。
だが、兵士に日本語も通じない。ガタイの良い兵士は俺の方へ一直線に走ってくる。
そして巨人がそれを追う。
「おいおい、マジかよ」
俺は巨人の頭を捉える。今込められている銃弾が実弾ではない可能性もある。
だがそんな可能性は考えない。死ぬか生きるかの駆け引き。
俺は引き金に指をかけた。
「もし俺が死んだら。末代まで出品者を呪ってやる!!くらえぇぇぇぇ!!」