003.冒険者たちの研修会②
その後の剣士の講習は、この世界の科学についてのことだった。
「さて、さっき説明を聞いたと思うスキルだが、みんなに、スキルを早く習得するコツを教えてやろう、まず、空気中にある魔素だが、これは生物には扱えない、だから武器や道具をとうしてスキルとして魔素を使うんだ、ということはだぞ、いいか、剣をとうして魔素を感じるんだ、そうすれば武器も自ずと魔素に反応し始める。確かにスキル付きの武器は強いが感じるか感じられないかで、威力は全然変わって来る、だからいくら頑張ってもその感覚をつかめないと、最初のうちのスキルには、気づけ無いぞ。」
こんな感じで講習は終わったのだが、その後剣士の誘導で、みんなは闘技場に集合した。
少し待っていると、弓、槍、魔導石などに分かれた者たちが続々と集まってくる。
そして全員が集まった時、先程の剣士の講師を含め他の講師たちが、集合した彼らの前に並んだ。
「みんな、良いか、これから研修会の最後の研修として、実技を行ってもらう。相手になってもらうモンスターは、最近の農民の悩みの種、ワイルドボアだ。もちろん、この競技場の中だけだし、もし我々が危険だと思ったら、即救助に向かう。だから安心して今回の研修で身につけたことをぶつけてくれ」
一同の目の前にあるのは、砂でできた闘技場だ、周りは壁で囲まれ壁の上には、囲むように階段がありそこが観戦する者の椅子となっている。
実技の順番は、槍、魔導石、弓、剣士で一人ずつ相手をしていく、今回研修会に参加したのは100人ほどだが、実技をするのは講師が選んだ30人、その中にはもちろん金甲冑の男もいる。彼らは順番に戦闘を始めるのだった。
まずは、弓の講習を受けた者たち、彼らの戦い方は、ほとんどが単調だった、打ったら下がって打ったら下がってを繰り返す戦い方、しかし弓にも一人ずば抜けてすごいものが居た。
その男は青い服を着た青年、そう、ただの服なので、装備は着ていない、しかし彼は、防御力とひきかえに身軽さを手にいれていた。
彼に対して、一直線に突進してくるワイルドボア、驚くことに彼は、一寸たりとも動くことは無い、突進してくるワイルドボアを前に堂々と立っている。そして彼とワイルドボアの距離は1メートルほどにまで縮んだ。すると彼は背負った弓を手で握り足を少し広げて構える。そしてもうほんの30センチほどに距離が縮まったところで、彼はなんと小ジャンプをするとワイルドボアの背中に片手をつき高くへ、跳ね上がった、そして逆さ向きのまま空中で、矢を手に取り弓を引いて放った。その間わずか1秒程度である、しかし彼の放った矢は、きれいに風を切る音を立てながら、ワイルドボアの頭部に向かって行く、そして数秒後には、少しも動かなくなったワイルドボアが彼の背後に転がっていた。
彼の洗礼された動きは、絶対にスキル、そして日々の鍛錬の成果だとハジメは確信する。
次に魔道士の番だ、魔道士は、スキルの込められた魔法石を使って攻撃する。その魔法石はほとんどが指輪にはめ込めれているので、彼らには素早い指輪の取替と5本の指にはめる指輪の組み合わせが強さを左右する。なぜ5本かと言うと片手に短剣を持つことと、5本のうち一個に気持ちを集中させ魔素をうまく活用するためである。10本の指全てにはめるとなると、人間の集中力では、一本ですらうまく使えなくなってしまうからだ。
彼らの戦いは以外に面白かった、5本になんの魔法石をつけるのか、移動系と攻撃系をつけて、うまく間合いを管理しながら攻撃するのか、はたまた攻撃系をたくさんつけ、一気に畳み掛けるのか、戦い方は様々だった。
そして槍、これに関しては武器の構造通り、長いリーチが特徴の武器だ、しかし、スキル持ちもいなかったし、目立った、槍使いも現れなかった、なんというかパッとしなかった。
最後に剣士、ハジメの受けた講習でもあるのでどうにか一人ぐらいは格好良い姿を見せてほしいものだ。剣士からでたのは7人、6人ともなかなかいい戦いをしたと思っている。そして最後の一人、レオンだ、まず彼はしっかりと、ワイルドボアの様子を見る。彼と対峙するワイルドボアは他のより少し大きい気がしたが彼の持ち前の甲冑でその差は埋められるだろう。
まず先手を打ったのはワイルドボアの方だった、彼めがけて突進している。それに答えるように彼も身構える。そしてワイルドボアが間合いに入ったその時、彼は、剣を大きく自分の後ろに振る、するとさっき見たように空中でなにかに弾かれたように跳ね返ると男の振った速度の何倍もの速度で剣が前方に斬りかかる、まるでワイルドボアをボールに例えた野球のようだった。そしてワイルドボアの角はきれいに割れ頭部に一撃を食らわせてK.O、さっきの必殺技のように2回の攻撃にスキルを使うのではなく、あえて一回攻撃を減らしその力を一撃に掛けて放つ、そんな攻撃は、この研修会での成果だと言えるだろう。
レオンがハジメの横に帰ってくる頃には、ハジメは彼を拍手して出迎えていた。
そして研修会も終わりに向かって行く、そう思った矢先、闘技場の扉から一人の老人が入ってきた。コルトだ。
「これは、鑑定長殿、どうされましたか?」
「うむ、じつは、戦いが見たい人物がいてな、まだワイルドボアは残っているのか?」
「えぇ、前の大狩猟のときに40体ほど捕獲したはずですので、しかし、鑑定長が直々にお越しになるとは、どのような人物なのですか?」
さっきの熱狂講師は、メクリア同様に、口調が固くなった、熱狂講師を静かにさせる程の人物、やはり彼の地位は特別なものなのだろう。
「あー、そこの彼じゃ、彼、口の隠れた彼、」
「彼、ですか、しかし彼は、私の講習の間一度も剣を見せておりませんが?」
「何を言っておる、ずっと見せておったじゃろう、あれこそが彼の剣じゃよ」
「は、はぁ」
会話を済ませると彼は大きな声でみんなに声を掛ける。
「済まない、終わりの予定なのだが、鑑定長殿の申し出でもう一戦したいと思う、そこの彼、アスカハジメは、闘技場に出てくれ、」
「え、鑑定長って偉いひとでしょ?ていうかずっと居て名前を聞いてなかったやごめんアスカハジメ、改めてよろしく」
「ハジメで良いよ」
そう言い残すと彼は闘技場に出た。目の前には、ワイルドボアが一匹、外で見たのとは比べ物にならないくらい迫力がある。しかもこの状況をどんな武器ともわからないもので戦うのには、まずは使い方を知ることから始める必要がある。
どう使う?アンノームは、口に覆いかぶさっている、ってことは声?まさか声が俺の武器なのか?でもどう出せば武器として使える?
彼は考えた、しかし考えていて、いつまでも突っ立ているともちろんながらワイルドボアは突進してくる。考えることに必死な彼は当たるまで気づかなかった。
「あ、しま・・・!」
そのときにはもう手遅れだ。当たった衝撃で2メートルほど吹き飛ばされる。もちろん足は折れ、もう動くことはできない。彼を襲う痛み、周りは慌てて救出しようとしているが、もう彼の足はズタボロでそのあまりの痛みに彼は叫んだ。
「ああああああああああああああああああああああ・・・・・・・・」
しかしどうだろうか、彼の悲痛の声は、後半何も聞こえなくなっていた、確かに出しているのに、何故か聞こえないそれはもしかしたら人間の聞こえる音程を超えたからかもしれない。そんな誰の耳にも聞こえない悲鳴を上げると、視界にいきなり、文字が現れた。
実績:はじめての能力使用 が確認されました、よって現在より彼を適合者と認めスキルの習得及び使用を許可します。更に常時発動の効果として、自己修復力、肉体強化を付与します。
その文字が浮かんだ直後、体が少し軽くなった。そして足を見るとそこには骨折した足ではなく、健康的な足があった。立ち上がると、彼は静かに目を閉じて、魔素を感じた。すると自然とわかるようになっていた。魔素には流れがある、それを声で制御するんだ。
「少年、もう一度くるぞ!!」
その声が聞こえた頃にはもう彼の体にワイルドボアが当たる直前だった。さっきのようにあたる。しかし今度の彼は、ただ飛ばされるだけでは無い、それをこらえ地面を足で擦りながらも耐えしのぐ、さっきの肉体強化の効果なのか、少しの出血でしんだ。
「もう大丈夫、」
そう言って彼は小さな声で魔素を動かすように魔素に命令するように声をだす。すると彼から砂嵐のような音が一瞬出た。その瞬間、ワイルドボアの体に小さな火がつく、それは段々広がりワイルドボアはとうとう豚の丸焼き同様になってしまった。
まわりから聞こえる拍手喝采、救助に向かおうとしたハンターたちも闘技場の入り口で拍手をしていた。しかしその拍手は長くは続かない。いきなり騒然とし始める周り、何事かと思い周りを見渡すと、レオンの顔の甲冑が取れその横には、彼の首にナイフを突きつける汚に服装の男が一人いた。
「俺はこの時を待ってたんだぜ~ナイスだったよ闘技場のお兄さん、おかげでハンターや冒険者が近くに居ない状況ができた、なんてラッキーなんだろうな~王子さまよ~」
レオンがお金持ちなのは察しがついた、しかし王子様だとは想定外だ、だからずっと甲冑をつけてたようだ。しかし甲冑が取れてみれば案外きれいな顔をしているものだ、訓練もきっと彼のために考えられた、ケガのしない安全な訓練なのだろう。
この状況を見るに俺しか救えるやつは居なさそうだ、今、スキルを発現させたばかりだがどうにかして彼を救い出さなければ、彼は大きく息を吸うと、しっかりと魔素の流れを感じ取った。男に届くように波が動き出したら。スキルを使おう。
少しの間じっと目をつぶって息を整えながら流れを感じ取る。きっと感覚も肉体強化で強化されたのだろう。はっきり見える。あとはタイミングだ。身代金を要求しながら猿のように騒ぎ当てる彼に魔素が届くように流れをよく見るんだ。
「今!・・・・・」
めちゃギリギリや。
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