小田原城入城
武田勝頼は北条家と真の家族になります。
武田勝頼率いる武田勢と上杉政虎率いる上杉勢は小田原城へ入城した。
それを北条氏康ら北条家の面々が出迎える。
「此度は苦しい中での援軍かたじけない。約束通り我等は勝頼殿の傘下に入らせて貰う」
小田原城の本丸御殿に通された武田勝頼は上座に座らされ、少し下がって左右に上杉政虎と風魔葵が座る。
「儂は隠居して家督は息子の氏邦に譲ろうと考えているのだが、許してもらえるだろうか?」
北条氏康は、武田勝頼に伺いを立てる。
武田勝頼は沈黙していたが、重い口を開く。
「此度の戦で色々あったが、領土も広がった為、配下の武将達を一斉に国替えする事を考えています」
「北条氏邦には武蔵の国の鉢形城から秩父に掛けて領地を与える為、そこに移って貰います」
北条氏康は目を瞑り暫く沈黙した後、声を絞り出す「住み慣れた、代々の小田原城を離れるのは断腸の思いであるが、これも約束…致し方あるまい。速やかに鉢形城へ氏邦と移ろう」
「待たれよ。勘違いしないで頂きたい、義父上」
義父上だと?北条氏康は武田勝頼が何を言っているのか全く見当がつかなかった…
そもそも確かに、嫡男であった北条氏政が武田勝頼の姉を嫁に貰っていたが、それでも義父上と呼ばれるのは不可解である。
しかも北条氏政は鬼籍に入っており、武田勝頼の姉は未亡人である。
「確かに勝頼殿の姉君は我が嫡男氏政の嫁ではあったが既に鬼籍に入っておる」
「ああ、姉のことならば、氏邦の嫁として嫁ぐことを氏邦に相談して了承して貰ってます」
ああ、そういうことか…しかしそれでも義父上は言い過ぎではないかと氏康は思う。
「これはうっかりしていました。義父上が首を傾げるのも無理はありませぬ。私の説明不足でした」
北条氏康は、武田勝頼の言葉により一層理解出来ないのだが…
「お早、入って来ておくれ」
「お早だと?何を言っているのだ?」
襖が開くと、そこには今川義元によって殺された筈の早川殿が大きな瞳に涙を浮かべて北条氏康に抱きつく。
「父上様!父上様!父上様!」うえーんと…
北条氏康は、夢を見ているのかと思った。殺されたと思っていた最愛の娘が今、自分の腕の中で号泣しているのだ…
「お早!?本当にお早なのか!?」
北条氏康は泣いた。人目を憚らずに泣いた。もう涙は枯れ果てたと思っていた。だが涙が止まらなかった。
早川殿は今までの全ての経緯を父である北条氏康に話した。
そして武田勝頼の側室になったことも…
「そうか…それで義父上か…合点がいった。父親として改めて礼を言わせてほしい。そしてお早の事を宜しくお頼み申す」と深々と頭を下げたのであった。
北条家の家臣団は勿論、武田勝頼の配下や上杉政虎の配下も皆涙を拭っていた。
「先ほどの話に戻りますが、義父上にはお願いがございます」
「義父上には隠居せずにまだまだ働いて頂きたい。それと氏邦には別家を立てさせるので、北条家の家督は私とお早の子に継がせて頂きたい」
「私は日の本を変え、統一して武田幕府を開くつもりです。暫くはここ小田原城を本拠とさせて頂きますが、江戸城と城下町を整備して江戸をこの日の本の中心にするつもりです」
「それまではこの小田原城が本拠になりますが、義父上にはこの小田原城で私とお早を支えて頂きたい」
「そして江戸の町が完成し、私とお早に男児が産まれた際にはこの小田原城をその子に任せ北条家を継がせたいと思います」
「義父上には、私とお早の子の後見人になって頂きたいのです」
北条氏康は、思ってもいなかった勝頼の提案に感謝し、勝頼の提案に同意したのであった。
北条氏康は小田原城で勝頼夫婦と孫を生涯支える良き祖父となります。