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大崎玄蕃と名を変え生き延びた武田勝頼の末裔の咆哮  作者: 吉良山猫
第3章甲斐動乱篇
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小田原城の戦い4

嵐の前の静けさです。

早川殿は北条氏政の妹で、北条氏康の4女で天文17年の産まれであった。


まだ幼かった彼女を殺してまで、更に幼いお犬の方を嫁に迎えた今川氏真を武田勝頼は許せなかった。


正確に言えば、武田勝頼の祖父で老虎武田信虎に助け出されていたのだが…


まだ幼かった彼女が親元から離され北条家の為にその身を犠牲にしたのに、この仕打ちは勝頼の逆鱗に触れた。


史実の武田勝頼の記憶、後悔が勝頼の魂の奥に融合しているのもその理由であった。


史実の武田勝頼が裏切りにより天目山に追い詰められた際に、妻であったまだ若かった北条夫人を死なせてしまった。


大崎玄蕃と名を変えて生き延びた武田勝頼は死ぬまでその事を悔やみ続け、1日たりとも北条夫人の事を忘れた事はなかった…


今、その姉である早川殿は、恐怖とショックの為に、誰も信じられなくなってしまっている。


北条千代丸にとって同い年だが、早川殿の方がやや早い産まれの為、姉上と呼んでいる。千代丸は早川殿の事を思うと胸が張り裂けそうであった。


そして彼は姉を思い人目を避けて涙していたのである。


武田勝頼は、そんな二人の姿を見て胸を痛めていた、力になりたいが一体どうすればと…


しかし同じ気持ちの者が2人いた。その者達は敢えていつもの様に名前ではなく別の呼び名で勝頼に話しかける。


我が夫よ…私の旦那様…そう、それは武田勝頼の妻である上杉政虎と風魔葵であった。


2人はこの可哀想な北条の姫を、勝頼の嫁にできないだろうかと訴える。


このままでは早川殿は壊れてしまう。しかし他の男の元に嫁いでも傷は癒えないだろう。


ならば勝頼の側室にすることにより、3人で彼女を支え、人としての幸せを掴ませてあげたいとのことだった。


2人がそこまで言うのならと、勝頼が早川殿に事情を打ち明けたところ、早川殿は泣き崩れながら勝頼の胸に飛び込んだのである。


史実の武田勝頼が北条夫人を幸せにできなかった分も、勝頼はこの北条の姫を守ることを心に誓ったのである。


これには早川殿だけでなく、北条千代丸は人目をはばからず大声で号泣した。


勝頼様、この北条千代丸、この恩は一生忘れないと、一生ついていくと。


そして、十万以上の大軍に囲まれて孤立し、苦戦している義父となる北条氏康を救うべく、信濃の軍勢や越後の軍勢を再編し、関東へ静かに侵攻して武蔵を制圧して今に至るのである。


さらに汚い策略により怪我を負った北条氏康のことを知った勝頼は、腕が立ち相模の国と小田原城に詳しい者に書状を預け、小田原城へ向かわせたのだ。


それには、武田勝頼達が考えた逆襲の作戦が認められていた。


そう、あの干し芋を齧りながら走り抜けた影と、闇に消えた狸こそ、風魔葵であったのである。


そして風魔葵は北条氏康からの返書を受け取り勝頼に手渡していた。


因みに勝頼が北条氏康に送った書状は、この苦境を乗り越える策だけであり、早川殿のことなどは伝えていない。


北条氏康の返書には3つの重要なことが書かれていた。


まず武田勝頼の作戦は了解したのでその通りにするとのこと、北条千代丸より上の男子は皆、鬼籍に入ってしまった為、北条千代丸を元服させて北条氏邦と名乗らせて欲しいことと最後の1つだ。


最後の1つには流石の勝頼も驚いた。


小田原以外の全ての領地を失い、多くの人材を失い、自身も傷を負った北条家には最早、単独で今川家や連合軍に勝つ力は持たない為、武田勝頼に臣従するとの申し出であった。


それに関し、勝頼は色々思うところと、考えがあった為、了承した。


そして武田勝頼自らが烏帽子親となり、北条千代丸は元服し、北条氏邦が誕生したのである。


そして武田勝頼はその祝いとして、生涯愛刀にしようと思っていた自らの愛刀正宗を贈ったのであった。


武田勝頼は代わりに結婚の際に、愛の証として上杉政虎から貰ったあの刀を自らの愛刀として腰に帯刀する。


上杉政虎と言えば名刀を数多く所持したので有名であるが、現在、政虎が帯刀している名刀は姫鶴一文字である。


では勝頼に贈った名刀は何かと言えば、そう雷切、鉄砲切り兼光である。


以後、武田勝頼の愛刀は雷切となるのであった。




猛獣達の逆襲が今始まろうとしているのを今川家や連合軍は知らなかったのです。

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