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大崎玄蕃と名を変え生き延びた武田勝頼の末裔の咆哮  作者: 吉良山猫
第3章甲斐動乱篇
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逃げ弾正!

逃げる恥ではない!逃げるのが上手い者が生き残るのです!

その頃躑躅ヶ崎館を抜け出した逃げ弾正こと高坂弾正は武蔵野に入り馬を手に入れ上野を抜け出しやっと越後の国の国境が見えてきていた。


付き従っていた家臣達は追っ手に追われた主人を逃す度に、一人、また一人と自らの命を引き換えに時間を稼いだ…


「皆の者…すまない!しかしこれも全ては武田のお家の為だ!許せ!」


そう、逃げ弾正がとった方法はあの鬼島津で有名な捨て奸であった!


城を抜け出した時には数名、途中から追いかけてきた者を合わせれば数十名いた筈の家来達は今ではまた数名に減っていた。


最初は軍勢が追って来ていたが流石に武蔵に入ると追う訳には行かず透波達に追っ手が変わっていた。


捨て奸は高坂弾正が命じた訳では無かった!そう、彼の家臣達が自ら行った行為が捨て奸と同じになっていたのである。


高坂弾正は家臣達から慕われていた。元々身分の低い処を武田信玄により取り立てられた彼は、低い身分の者にも分け隔てなく接して、家臣が結婚や出産などがあれば自ら足を運んで祝いの品を手渡し、不幸があれば一緒に泣いた。


家臣達はいつかこの恩を必ず返したいと思っていた。


そう彼らは戦国最強と言われた誇り高き武田武士である!


一人で尾張の弱兵や三河武士の数人分の強さと言わしめた屈強な彼等の強さは凄まじかった。


皆の、どれだけ矢を射られても、腕が使えなくなれば口で刀を咥え、命が尽きる最後の瞬間まで諦めなかった。


そんな彼等の犠牲の上で三日三晩馬を走らせやっと越後の国境まで辿り着いたのである。


しかし、あと少しの処で透波達に追いつかれる…此方は3名…全員手傷を負っている、高坂弾正も折れた矢が背中に刺さっている…


「殿お世話になり申した!ごめん!」馬を返し家臣が時間稼ぎの為死地へ赴く…


越後の領内に入り春日山城を目指すが…


その時追ってきていた筈の透波達の方から悲鳴が上がる。彼らに弓が降り注いだのだ!?そう軒猿である。前方からは越後勢が数十騎見える…


「た…助かったのか?」


安堵のあまり高坂弾正は馬上で気を失ってしまった。


軒猿が何者かが武蔵から忍びに追われて越後を目指していることを報告した為、春日山城から上杉政虎の命を受けた鬼小島弥太郎が数十騎と共に駆けつけたのである。


鬼小島弥太郎は透波を殲滅させると、部下達へ高坂弾正と背中に大箱を抱えたその家臣を自らの屋敷に運び手当てする様に命じたのであった。


高坂弾正は一刻程して目を覚まし「ここはどこだ!?」


すると鬼小島弥太郎が部屋に入ってきた。「連れの者から貴殿の素性は聞かせてもらった!しかし尋常じゃない様子!?武田家の重臣が何故追われており、越後までやって来たのかを話して頂きたい!」


「助けて頂きかたじけない!しかし今ここで話す訳にはまいらん。後生でごさる。どうか上杉政虎様に御目通り願いたい。」


「某は主君武田信玄の正式な使者でござる!」


他国の大名の正式な使者となれば粗末に扱う訳にはいかない。鬼小島弥太郎は春日山城へ報告し、直ぐに上杉政虎に御目通りできるようになった。


春日山城で傷ついた身体の痛みに耐えながら高坂弾正は平服している。


「面をあげなさい!」


「主君武田信玄の使者として参りました。某、高坂弾正昌信でございます」


「堅苦しい挨拶は良い!尋常でないようだが何があったのですか?」


「ハッ!甲斐にて嫡男武田義信様に御謀反!背後には今川義元がおりまする!」


「それはまことか!?」


城内が驚きでざわめく!


「しかし何故それを我等に?」


「詳しくはこの書状を!」武田信玄からの書状を差し出すと小姓がそれを受け取り上杉政虎に手渡す。


上杉政虎は書状を読むと目を閉じて考えている。


「筋違いは重々承知!されど我が主君武田信玄は武田家の次期当主の座を武田勝頼様に譲ると仰いました。家督を継ぐ証も勝頼様の忍びに託してあります!」


「我が主君武田信玄が勝頼様から聞いている話では勝頼様の婚約者が上杉家の重臣の中にいると伺っておりました」


上杉政虎は目を瞑り黙っている。


「助けて頂きたいとは申しません、ただ今の状況は勝頼様はとても不利な状況に置かれており、甲斐は敵の手に落ち周囲に味方もいない状況にございます!」


「なので我が主君が言えたことではないのは重々承知でございますが何卒、上杉家の義をもちまして勝頼様の背後を襲うようなことだけはしないでほしいのでございます」


「この通りでござる」


高坂弾正が床に頭を擦り付ける…


「そういうことですか…わかりました!」


「で…では!聞き入れてくださるのか?」


「勘違いしないように!」


「な!?」


「味方はここにいます!はなから私は勝頼殿の味方です!」


「え!???」


「自身の愛する夫の危機に動かない妻がどこにいますか!?」


「ま、まさか…妻ですと!?それでは勝頼様の婚約者とは!?」


「ええ、この上杉家当主である上杉政虎です!」


高坂弾正はヒェ!と彼らしくない声を出してしまうほど死ぬほど驚いた!


高坂弾正でなく、武田信玄がこの場にいても同じ反応をするだろう!?まさか武田勝頼の妻が軍神と言われる戦国最強の大名上杉政虎なのだから!?


「武田義信だろうとも、今川義元であろうとも私の愛する夫に害をなすとどうなるか思いしらせてあげましょう!」


高坂弾正はゾッとした…目の前の上杉政虎の覇気とその突き刺さるような眼光の鋭さに!


「フフフフフ…越後の龍の恐ろしさ、思い知らせてあげましょう」


ヒ、ヒィ!そうでなくても越後の龍と聞いただけで誰もが震え上がるのだが、恋する乙女はより恐ろしいのである!


今川義元は龍の尻尾を踏んだ?いや逆鱗に触れたのである…

女を怒らせると怖いのですが、恋する乙女を怒らせると恐怖だと言うことを今川義元達は後悔するでしょう。

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